映画ファンの年齢層を世代別に分けると、劇場よりもビデオソフトで観た本数のほうがよっぽど多いビデオ世代(もしくはレンタルビデオ世代)がかなりの層を占めており、1970〜80年代から貪るように映画を観始めた僕もこのカテゴリーに属する。
いまやテープもデッキも生産されなくなって久しいVHSは、僕たちに何をもたらし、世界の映画シーンをどのように変えたのか、日米の名だたるクリエイターや論客が思いの丈を語っているのがこのドキュメンタリー。
VHSはもともと日本の日本ビクター(現JVCケンウッド)が1976年に開発したもので、ソニーが1年早く世に出したベータマックスとの市場戦争を勝ち抜き、アダルトビデオから劇場用超大作まで、あらゆる映像作品を家庭で楽しめるソフトとして世界中を席巻した。
ベータより解像度で劣っていながら価格が高めだったVHSの勝因には諸説あるが、録画時間が1時間しかないベータに比べて、VHSは最低でも2時間、画質を落とせば4時間程度の録画が可能だったからだ、というのが本作の結論。
大手映画会社は当初、作品のVHS化に二の足を踏み、セル専用で売りに出されたものも1本1万円以上と大変高価だったが、過去の名作を安価で売り出したところ、爆発的な売れ行きを示し、これがのちのレンタル市場の誕生、日本のVシネマのようなVHSオリジナル作品の製作へとつながった。
このくだりで登場するのがエロチック・スプラッター・ホラー『バスケット・ケース』シリーズ(1982年〜)の監督・脚本を手がけたフランク・ヘネンロッター、『悪魔の毒々モンスター』シリーズ(1984年〜)を製作、監督したロイド・カウフマンである。
映画館へひとりで観に行くのは躊躇われ、かと言ってよっぽど趣味の合うシネ友でなければ誘いにくいこの手のゲテモノ映画も、レンタルビデオ店なら気軽に借りられ、友だち同士で一杯やりつつ、ツッコミを入れながら楽しむことができたのだ。
やがて最初から劇場での興行収入ではなく、VHSの売れ行きやレンタル店の回転率を当て込んだ低予算映画が数多く生産されるようになり、大手映画会社で作品を撮らせてもらえない若きクリエイターたちがこの世界へ続々と参入する。
ここでヘネンロッターが自分が作った安手のホラーを棚に上げて、「まあ、ほとんどはゴミ映画だったけどね」などと笑い飛ばしているのには、おまえが言うな、とツッコミを入れたくなった。
いまでは忘れ去られた東映Vシネマの小品も紹介されており、こんな子供だましの映画を観たがるファンがよくいたものだと飽きれる半面、この世界で人気女優となった中川翔子が「ビデオがなければ私なんかとっくに消えてたでしょう」と冷静に回顧している言葉にうなずかされた。
VHSは日本を発祥の地とするツールだけに、わが国からも映画監督・押井守、アダルトビデオ監督・バクシーシ山下、映画ライター・藤木TDCなど、かつてVHS文化を支え、ビデオ業界で大活躍したクリエイターたちも多数登場。
初めて家にビデオデッキが設置されたときの興奮、レンタル店で何度も再生された場面に走る横線が意味するものなど、ビデオ世代ならではの思い出やこだわりを懐かしそうに、それでもいまだに熱く語っているインタビュー映像が興味深く、実に楽しい。
監督のジョシュ・ジョンソンはてっきり僕と同世代かと思いきや、約20歳も年下の1982年生まれ。
にもかかわらず、しっかりとビデオ世代のツボを押さえ、文化論としても見応えのあるドキュメンタリーに仕上げている。
オススメ度A。
ブルーレイ&DVDレンタルお勧め度2022リスト
A=ぜひ!🤗 B=よかったら😉 C=気になったら🤨 D=ヒマだったら😑
※再見、及び旧サイトからの再録
7『キャノンフィルムズ爆走風雲録』(2014年/以)B
6『ある人質 生還までの398日』(2019年/丁、瑞、諾)A
5『1917 命をかけた伝令』(2020年/英、米)A
4『最後の決闘裁判』(2021年/英、米)B
3『そして誰もいなくなった』(2015年/英)A
2『食われる家族』(2020年/韓)C
1『藁にもすがる獣たち』(2020年/韓)B