1970〜80年代、主にB級アクション映画やセクスプロイテーション映画でハリウッドに旋風を巻き起こし、時には意外に心に残る佳作や痛快な作品も世に出したキャノン・フィルムズの内幕を描いたドキュメンタリー。
主役は当然、プロデューサーと監督を兼務し、この会社を一代で築き上げたメナハム・ゴーランと、そのゴーランのために製作資金をかき集め続けた従弟ヨーラン・グローバスである。
僕が初めてゴーランの名前を知ったのは中学生時代、地上波テレビの洋画番組で観た監督作品『特攻決戦隊』(1970年)という中東の戦争映画だった。
その後、晩年のトニー・カーティスが主演した『暗黒街の顔役』(1975年)、大ヒットしてシリーズ化されたエロチック青春コメディ『グローイング・アップ』(1978年)など、いかにもB級テイストいっぱいながら、映画小僧にとってはつい気になる映画を連発していたのだ。
そうした作品で母国イスラエルで一定の成功を収めると、ゴーランとグローバスは世界市場で一旗揚げようとアメリカに渡り、ハリウッドに進出。
ロサンゼルスで最も危険と言われる地域でオフィスビルのフロアを借り、毎日ホットドッグばかり食べながら、脚本の売り込みや企画書の持ち込みを続け、徐々にB級映画でヒットを飛ばすようになる。
その半面、日本でもアメリカでも批評家の評価はいつも芳しくなく、『ロサンゼルス』(1982年)以降のチャールズ・ブロンソン、『地獄のヒーロー』(1984年)以降のチャック・ノリスなど、一時はキャノン専属となっていたアクション俳優の主演映画はクソミソにやっつけられていたものだ。
にもかかわらず、ゴーランはボルテージの高いB級映画を作り続け、その中にはコリン・ウィルソンの原作を映画化した『スペースバンパイア』(1985年)、トム・サヴィーニ監督によるリメイク版『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド 死霊創世記』(1990年)など、ホラー&SFオタクの好奇心を刺激し、結構見どころのある快作も少なくなかった。
こうして兎にも角にも客だけは集め続けたキャノンフィルムズは、ロサンゼルスに大きな自社ビルを建設し、ハリウッドのセレブを集めて落成パーティーを開催。
邦題のように「爆走」を続けるゴーランは、MGM、20世紀フォックス、ユニバーサル・ピクチャーズのようなメジャー会社の座を狙うと公言するまでになった。
しかし、湯水のように製作費を注ぎ込むゴーランの金銭感覚が災いし、このころから経営が傾き始め、『スーパーマン4 最強の敵』(1987年)の失敗が決定打となって、ついにはイタリアの怪しげな投資家に会社を乗っ取られてしまう。
この経緯と内幕はスーパーマン役者クリストファー・リーヴの自叙伝『車椅子のヒーロー あの名俳優クリストファー・リーブが綴る「障害」との闘い』(1998年/徳間書店)に詳しく、こちらにはゴーランがとんでもないヤマ師で食わせ物であるかのように描かれていた(たぶんそれも間違いではないのだろう)。
ゴーランはこのとき、投資家と組んだグローバスと袂を分かち、親戚同士ではなく夫婦も同然と言われた30年以上に及ぶ蜜月関係にピリオドを打った。
ちなみに、グローバスが〝手切れ金〟としてゴーランに渡した金は約7500万ドルと、何ともべらぼうな額である。
63歳でそれだけの老後の資金を得たのだから、この際イスラエルへ帰り、散々迷惑をかけ、寂しい思いをさせてきた家族とともに余生を過ごせばよさそうなものだが、ゴーランはまだまだ映画を作る気満々。
フランスのカンヌに拠点を移し、21世紀ピクチャーズという新会社を立ち上げ、マーベルコミックス『スパイダーマン』の映画化権を手に入れてもう一勝負に出ようとする。
本作の公開直後に85歳で亡くなったゴーランは、監督のヒラ・メダリアに「失敗について聞きたい」と質問されると、「俺は失敗なんかしていない!」と怒りの表情で返答。
「仮に失敗したのが事実だとしても、俺は自分でそれを無かったことにする!」と傲然と言い放っている。
なるほど、ゴーランがこういう意地と信条の持ち主だったからこそ、彼の作る映画にはどこか俺の心を打つところがあったのかもしれないな、と最後は妙に納得してしまった。
しかし、このドキュメンタリー映画、キャノン・フィルムズのゴーラン監督作品を観たことのない人にはまったくピンとこないでしょうね。
オススメ度B。
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※再見、及び旧サイトからの再録
6『ある人質 生還までの398日』(2019年/丁、瑞、諾)A
5『1917 命をかけた伝令』(2020年/英、米)A
4『最後の決闘裁判』(2021年/英、米)B
3『そして誰もいなくなった』(2015年/英)A
2『食われる家族』(2020年/韓)C
1『藁にもすがる獣たち』(2020年/韓)B