2013〜14年、シリアでイスラム系テロ組織・IS(イスラム国)に誘拐されたデンマークの報道写真家ダニエル・リューが398日後に生還するまでを描いた劇映画。
この事件をつぶさに取材したジャーナリスト(2011年からDBC=デンマーク放送協会中東特派員)、プグ・ダムスゴーのノンフィクション『ISの人質 13カ月の拘束、そして生還』(2016年、光文社)を原作として映像化されている。
ダニエル(エスベン・スメド)は学生時代、デンマーク代表に選ばれるほどの優れた体操選手だったが、海外遠征に出る直前のイベントで足を痛め、現役生活を断念せざるを得なくなる。
しばらく自暴自棄に陥り、無為に日々を過ごすダニエルを、父キエルド(イェンス・ホルン・スポタグ)、母スザンヌ(クリスティアン・キエレブ・コッホ)、姉アニタ(ソフィー・トープ)、妹クリスティーナ(アンドレア・ハイック・ガデベルグ)、それに恋人シーネ(サラ・ホルト・ディトレブセン)が優しく励まし、再起を促す場面がしばらく続く。
序盤はこのくだりがいささかまどろっこしく感じられたのだが、彼・彼女らがダニエルを救出しようと奮起する後半にきて俄然効果を発揮する。
やがて、市井の人々を撮影することに生きがいを見出したダニエルは、著名な写真家ラスムス・ビョーグ(テュー・バーグ)のアシスタントとして働くようになり、ひとりで派遣されたシリアでISに拘束される。
ISによる拷問や屈辱的な強要の描写は非常に凄まじく、一応G指定なのだが、ダニエルがロバの真似を強いられるシーンなど、思わず目を背けたくなる場面も少なくない。
一方で、やたらと暴力的なISのメンバーもステロタイプ的な悪役として描かれているわけではなく、民間コンサルタントのアートゥア(アナス・W・ベアテルセン)との交渉に応じる首領アブ・フラーヤ(ナディーム・スルージー)は一抹の人間味も感じさせる。
フラーヤは当初、ダニエルの身代金として70万ドルを要求したが、ダニエルの家族は貯金をはたき、家を担保に入れても25万ドルしか集められず、その額でアートゥアに交渉を依頼して決裂。
金額を下げられたことを屈辱と受け取ったISは、報復としてダニエルにさらに激しい拷問を加え、身代金を一気に200万ユーロにまで引き上げる。
果たして、ダニエルの家族は身代金を調達できるのか、タイトルから結果がわかっていても、どうか助かってほしいと祈るような気持ちになってしまう。
監督は大ヒットした『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』(2009年)で手腕を認められたニールス・アルデン・オプレブで、今回もいたずらに扇情的な演出に走らず、淡々とした描写を積み重ね、静かな感動を呼び起こすことに成功している。
オススメ度A。
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※再見、及び旧サイトからの再録
5『1917 命をかけた伝令』(2020年/英、米)A
4『最後の決闘裁判』(2021年/英、米)B
3『そして誰もいなくなった』(2015年/英)A
2『食われる家族』(2020年/韓)C
1『藁にもすがる獣たち』(2020年/韓)B