『必要になったら電話をかけて』レイモンド・カーヴァー著、村上春樹訳😁🤔🤓

Call if You Need Me
発行:中央公論新社 村上春樹翻訳ライブラリー 初版:2008年7月10日 再版:2020年3月31日 定価1100円=税別

村上春樹氏が翻訳・監修した〈レイモンド・カーヴァー全集〉全11冊を締め括る最終巻であり、短編小説を収めたものとしては8冊目になる。
僕はこのうち6冊を読み、それぞれにカーヴァーの世界を楽しみ、勉強させてもらって、自分なりに理解できたつもりではいるが、本書を読んで、いや、もしかしたらやっぱり何もわかっていないのかもしれない、と思うようになった。

カーヴァー全集は第1巻『頼むから静かにしてくれ Ⅰ』からほぼ順番通りに読んでいて、50歳で他界したこの作家は後年になるに従って円熟味を増し、構成に緻密さが出てきて、文章もより研ぎ澄まされていく印象を覚えた。
逆に若いころのほうが面白い作品を書いていたのに、トシを取るに従って切れ味が鈍っていく作家もいるが、カーヴァーは中年になって酒を断ったこともあり、年齢を経るにつれて成熟していった、という僕の受け止め方に間違いはないと思う。

カーヴァーは自作を発表したあとも再三手を入れ直し、修正に修正を重ねて一篇の作品を磨き上げていく、という手法でいくつもの珠玉の名短編を残した。
本書に収められているのは、カーヴァーがそういうブラッシュアップを施さず、長年机の引き出しの奥に仕舞ったまま、ついに発表することのなかった作品である。

翻訳者・村上氏の巻末の解題によると、『薪割り』『夢』『破壊者』は妻テス・ギャラガーが、『どれを見たい?』『必要になったら電話をかけて』はカーヴァー研究家のウィリアム・スタルが、カーヴァーの死後、長い年月が経ってから〝発見〟したものだという。
どの作品もカーヴァーならではの滋味と切れ味が一体となった小宇宙を形作ってはいるが、後年の『大聖堂』などに比べると、まだ推敲段階にあるように感じられなくもない。

ここで村上氏の推理は、名短編とされるカーヴァーの代表作の数々が編集者ゴードン・リッシュとの〝共作〟、もしくは妻テス・ギャラガーの作品の〝剽窃〟という疑いがあることを指摘したニューヨーク・タイムズの記事『誰がレイモンド・カーヴァーの小説を書いたのか?』(村上春樹翻訳ライブラリー『月曜日は最悪だとみんなは言うけれど』所収)に向かう。
カーヴァーの未完成の短編を読み、才能と可能性を感じ取ったリッシュは、自分の手で徹底的に作り直してみたくなったのかもしれない、その気持ちはわからないでもない、と。

だとすれば、誰がカーヴァーの小説を書いたのか? という問いに対する答えは、やはりカーヴァーだったということになる。
それは、カーヴァーを愛し、尊敬してやまず、何度も何度も読み返してきた村上さんがようやく見出した一連の疑惑への着地点なのかもしれない。

😁🤔🤓

2021読書目録
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28『愛について語るときに我々の語ること』レイモンド・カーヴァー著、村上春樹訳(2006年/中央公論新社)😁🤔😖🤓
27『大聖堂』レイモンド・カーヴァー著、村上春樹訳(2007年/中央公論新社)😁😭😢😌🤔🤓
26『世界最悪の旅 悲運のスコット南極探検隊』アプスレイ・チェリー=ガラード著、加納一郎訳(1993年/朝日新聞社)😁😳🤔😖🤓
25『海峡を越えたホームラン 祖国という名の異文化』関川夏央(1988年/朝日新聞社)😁😭😢🤔🤓
24『1988年のパ・リーグ』山室寛之(2019年/新潮社)😁🤔🤓
23『伝説の史上最速投手 サチェル・ペイジ自伝』サチェル・ペイジ著、佐山和夫訳(1995年/草思社)😁😳🤔🤓
22『レニ・リーフェンシュタールの嘘と真実』スティーヴン・バック著、野中邦子訳(2009年/清流出版)😁😳🤔🤓
21『回想』レニ・リーフェンシュタール著、椛島則子訳(1991年/文藝春秋)😁😳🤔🤓
20『わが母なるロージー』ピエール・ルメートル著、橘明美訳(2019年/文藝春秋)😁
19『監禁面接』ピエール・ルメートル著、橘明美訳(2018年/文藝春秋)😁
18『バグダードのフランケンシュタイン』アフマド・サアダーウィー著、柳谷あゆみ訳(2020年/集英社)😁😳🤓🤔
17『悔いなきわが映画人生』岡田茂(2001年/財界研究所)🤔😞
16『映画界のドン 岡田茂の活動屋人生』文化通信社編著(2012年/ヤマハミュージックメディア)😁😳🤓🤔
15『波乱万丈の映画人生 岡田茂自伝』岡田茂(2004年/角川書店)😁😳🤓
14『戦前昭和の猟奇事件』小池新(2021年/文藝春秋)😁😳😱🤔🤓
13『喰うか喰われるか 私の山口組体験』溝口敦(2021年/講談社)😁😳😱🤔🤓
12『野球王タイ・カップ自伝』タイ・カップ、アル・スタンプ著、内村祐之訳(1971年/ベースボール・マガジン社)😁😳🤣🤔🤓
11『ラッパと呼ばれた男 映画プロデューサー永田雅一』鈴木晰也(1990年/キネマ旬報社)※😁😳🤓
10『一業一人伝 永田雅一』田中純一郎(1962年/時事通信社)😁😳🤓
9『無名の開幕投手 高橋ユニオンズエース・滝良彦の軌跡』佐藤啓(2020年/桜山社)😁🤓
8『臨場』横山秀夫(2007年/光文社)😁😢
7『第三の時効』横山秀夫(2003年/集英社)😁😳
6『顔 FACE』横山秀夫(2002年/徳間書店)😁😢
5『陰の季節』横山秀夫(1998年/文藝春秋)😁😢🤓
4『飼う人』柳美里(2021年/文藝春秋)😁😭🤔🤓
3『JR上野駅公園口』柳美里(2014年/河出書房新社)😁😭🤔🤓
2『芸人人語』太田光(2020年/朝日新聞出版)😁🤣🤔🤓
1『銃・病原菌・鉄 一万三〇〇〇年にわたる人類史の謎』ジャレド・ダイアモンド著、倉骨彰訳(2000年/草思社)😁😳🤔

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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