1982年に33歳でオーバードーズ(薬物過剰摂取)のために急逝したジョン・ベルーシの生涯は、日本のファンにとって秘密のヴェールに包まれたまま、もう明らかにされることはないだろうと思っていた。
そこへこういう映画が公開されたのだから、何を置いても観ておかなければと、急き立てられるようにしてヒューマントラストシネマ有楽町へ足を運んだ。
何よりも圧倒されるのは、ジュディス夫人が初めて公開した50時間に及ぶインタビュー録音テープ、生涯に渡って彼女に送り続けた膨大な数の手紙の文面など、ベルーシの純粋にして無垢、傷つきやすくて弱々しい内面をさらけ出した言葉の数々である。
ジュディスがスクラップしていた新聞のレビューと一緒に手紙が紹介されるくだりでは、日本語字幕が縦と横に同時に出てくるため、うっかりしていると見落としそうになるほど。
インタビューに応じている面々も、ジュディスと盟友ダン・エイクロイドをはじめ、『サタデー・ナイト・ライブ』(SNL)プロデューサーのローン・マイケルズ、SNLの共演者でありライバルでもあったチェビー・チェイス、代表作『アニマル・ハウス』(1978年)と『ブルース・ブラザース』(1980年)の監督ジョン・ランディス、コメディアンの弟ジェームズ・ベルーシなどなど、直接関係のある重要人物はほとんど網羅。
2016年にやはりオーバードーズで亡くなったキャリー・フィッシャーも出てくるので、かなり長期間に渡って取材と撮影が続けられていた作品であることがわかる。
ベルーシがコカインに手を出したのは1975年以降のSNL時代からかと思っていたが、実際はその3年前、ジュディスと一緒にニューヨークに進出し、ステージショー『ナショナル・ランプーン:レミングス』でミュージシャンとしても活動するようになってからだった。
麻薬の影響なのか、生来の性格なのか、目の上のたんこぶだったチェイスがSNLを去ってからは番組のボスとして振る舞うようになり、女優や女性ライターを見下し、怒りをぶちまけ、周囲に恐れられるようになっていったというくだりは意外だった。
中毒症状が悪化したころ、ジュディスに勧められて住まいを西海岸の島に移し、ショービジネス界での人付き合いを極力控え、ニクソン大統領の元SPだった人物を雇い、クスリ関係のコネクションを断ち切ることにもいったんは成功する。
しかし、映画に出演中、仕事上の悩みが高じるとまた麻薬に走ってしまい、もともと人並み以上に体力があったからか、晩年はコカインだけではなくヘロインを注射するほどになっていた。
晩年には、麻薬をやめようとしてもやめられず、「自分が破滅に向かって突き進んでいるのがわかる」と、ジュディスへの手紙で打ち明けている。
本作の製作に当たったジョン・パトセックは2006年からジュディスとの交渉に当たり、10年かけて口説き落としたというが、それに応えたジュディスもまたよくぞここまで赤裸々なベルーシの〝肉声〟の数々を提供したものだと感服させられる。
もっとも、その半面というか、そのせいでというか、ベルーシのコメディアンとしてのキャラクターやおかしさがほとんど印象に残らないことには一抹の寂しさも覚えた。
監督・脚本を手がけたR・J・カトラーは僕の1歳年上の1962年生まれで、同世代のオンタイムでベルーシを観たファンならいまでもわかってもらえると思うが、ベルーシというのは本当に理屈抜きで面白いお笑い芸人だったから。
前振りも注釈も要らない、スクリーンやテレビ画面に出てきただけで吹き出したくなるような、比類なきオーラと存在感を放射している空前絶後のタレント、それがベルーシだったのである。
彼のファンにとっては観ずに死ねるか、という作品であることは確か。
採点は80点です。
ヒューマントラストシネマ有楽町、テアトル新宿、アップリンク吉祥寺などで上映中
2021劇場公開映画鑑賞リスト
※50点=落胆😞 60点=退屈🥱 70点=納得☺️ 80点=満足😊 90点=興奮🤩(お勧めポイント+5点)
5『MINAMATA−ミナマタ−』(2020年/米、英)75点
4『007 ノー・タイム・トゥ・ダイ』(2021年/英、米)75点
3『ファーザー』(2021年/英、仏)90点
2『ゴジラvsコング』(2021年/米)70点
1『SNS 少女たちの10日間』(2020年/捷克)80点