『天外者(てんがらもん)』(WOWOW)😉

109分 2020年 ギグリーボックス

幕末から明治にかけて一介の薩摩藩士から政府の役人に転身し、やがて稀代の実業家として近代日本の経済の礎を築いたと言われる五代友厚の生涯を描いた作品。
劇場公開前の昨年7月、五代を演じた三浦春馬が急逝し、実質的な遺作となったことから、今年も昨年の封切日と同じ12月11日に全国304館で追悼上映が行われ、17,623人を動員したという。

1854年のペリー来航以来、開国論を唱えていた友厚(三浦)は坂本龍馬(三浦翔平)と意気投合し、薩摩藩内で脅迫され、鎖国論者の兄・徳夫(内田朝陽)と対立しながらも「未来に目を向けなければいかん」と説いて回る日々。
街中で偶然知り合った遊女はる(森川葵)が、地面に文字を書いて勉強している姿に感激し、彼女の元に通い詰め、将来に希望を持つように言い聞かせる。

これからは日本も英米のような推進力に優れた蒸気船を常備しなければならないと考えた友厚は、藩に頼み込んで上海へ渡り、蒸気船購入の契約を締結。
しかし、1863年、生麦事件に端を発した薩英戦争でこの藩船を奪われ、友厚自身も英国軍に捕まり、機転を働かせて脱出したのちも藩に捕虜となったことを疎まれ、全国を放浪する生活に追い込まれた。

やっと藩に帰れることになったら、友厚を「五代家の面汚し」と罵っていた父親は他界したあとで、遊女はるもイギリス人に身請けされて英国に渡っており、友厚も薩摩藩遣英使節団の一員としてイギリスに派遣され、ここで見聞を積む。
しかし、先に帰国していたはるは病を患い、ようやく再会を果たした五代に抱きしめられたまま、海を見ながら息絶えた。

そうした友厚の半生は概ね事実と歴史的経過に沿って描かれているが、はるの存在をはじめとしたディテールはオリジナル脚本の産物だろう。
意地悪な見方をすればいささか偉人伝的な臭みも感じられるが、三浦春馬の演技力と彼特有の透明感のある雰囲気によって説得力のあるストーリーになっている。

後半のクライマックスは明治初期、友厚が大阪商法会議所を設立して初代会頭に就任し、株主総会のような式典で猛烈な批判を浴びるシーン。
ここで袂を分かっていた岩崎弥太郎(西川貴教)に論戦を挑まれ、すでに病が進行していた友厚はハンカチに血を吐きながらも堂々と受けて立つ。

三浦春馬は渾身の熱演で、作品中でも一番の大きな見せ場ではあるものの、いまになって観ると、彼はこのころから自死することを考えていたのだろうか、という疑念がこちらの脳裏にちらついてしまう。
本作は2019年に撮影を終えていて、亡くなったのは翌年7月18日だから、直接の因果関係はないかもしれないが。

ちなみに、五代友厚も49歳の若さで急逝しているが、死因は糖尿病の悪化によるものとされており、この映画のように吐血を繰り返していたのが事実かどうかはわからない。
観終わった直後、謹んでご冥福をお祈りします、と胸の内で改めてお悔やみを申し上げました。

オススメ度B。

ブルーレイ&DVDレンタルお勧め度2021リスト
A=ぜひ!🤗 B=よかったら😉 C=気になったら🤨  D=ヒマだったら😑
※再見、及び旧サイトからの再録

135『ミセス・ノイズィ』(2020年/アークエンタテインメント)B
134『スパイの妻〈劇場版〉』(2020年/ビターズエンド)A
133『始皇帝暗殺』(1998年/中、仏、米、日)C
132『不毛地帯』(1976年/東宝)B
131『夜のピクニック』(2006年/ムービーアイ、松竹)C
130『空に住む』(2020年/アスミック・エース)C
129『浅田家!』(2020年/東宝)A
128『ザ・キング』(2017年/韓)A
127『光州5・18』(2007年/韓)C
126『シルミド SILMIDO』(2003年/韓)B
125『KCIA 南山の部長たち』(2020年/韓)B
124『3時10分、決断のとき』(2007年/米)B
123『アルビノ・アリゲーター』(1997年/米)C
122『悪い種子』(1956年/米)C
121『スターリンの葬送狂騒曲』(2017年/英、仏)C
120『ノマドランド』(2021年/米)A
119『復讐無頼 狼たちの荒野』(1968年/伊、西)B※
118『スペシャリスト』(1969年/伊、仏)C
117『父 パードレ・パドローネ』(1977年/伊)B※
116『ボルベール〈帰郷〉』(2006年/西)A
115『雨の訪問者』(1970年/伊、仏)A※
114『カサンドラ・クロス』(1976年/西独、伊、英)B※
113『イエスタデイ』(2019年/英、米)B
112『ペイン・アンド・グローリー』(2019年/西)A
111『バンクシーを盗んだ男』(2017年/英、伊)B
110『ザ・ヤクザ』(1974年/米)A
109『健さん』(2016年/レスぺ)B
108『ゴルゴ13』(1973年/東映)D
107『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』(2015年/伊)B※
106『スタントウーマン ハリウッドの知られざるヒーローたち』(2020年/米)A
105『真犯人』(2019年/韓)B
104『ダイヤルM』(1998年/米)B※
103『ダイヤルMを廻せ!』(1954年/米)A
102『私は告白する』(1953年/米)A
101『黄泉がえり』(2003年/東宝)B
100『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』(1994年/米)B
99『ワンダーウーマン 1984』(2020年/米)B
98『博士と狂人』(2019年/英、愛、仏、氷)C
97『追悼のメロディ』(1976年/仏)A※
96『デ・パルマ』(2015年/米)B
95『ブルース・スプリングスティーン 闇に吠える街 30周年記念ライブ2009』(2009年/米)B
94『ブルース・スプリングスティーン ライブ・イン・バルセロナ』(2003年/米)A
93『ブルース・スプリングスティーン ライブ・イン・ニューオリンズ2006~ニューオリンズ・ジャズ・フェスティバル』(2006年/米)B
92『ウエスタン・スターズ』(2019年/米)B
91『水上のフライト』(2020年/KADOKAWA)C
90『太陽は動かない』(2021年/ワーナー・ブラザース)C
89『ファナティック ハリウッドの狂愛者』(2019年/米)C
88『ミッドウェイ』(2019年/米、中、香、加)B
87『意志の勝利』(1934年/独)A
86『美の祭典』(1938年/独)B
85『民族の祭典』(1938年/独)A
84『お名前はアドルフ?』(2018年/独)B
83『黒い司法 0%からの奇跡』(2019年/米)A
82『野球少女』(2019年/韓)B
81『タイ・カップ』(1994年/米)A※
80『ゲット・アウト』(2017年/米)B※
79『アス』(2019年/米)C
78『ふたりのJ・T・リロイ ベストセラー作家の裏の裏』(2018年/米)C
77『キング・オブ・ポルノ』(2000年/米)B※
76『怒りの葡萄』(1940年/米)A
75『パブリック 図書館の奇跡』(2018年/米)A
74『バクラウ 地図から消された村』(2019年/伯、仏)B
73『そして父になる』(2013年/ギャガ)A※
72『誰も知らない』(2004年/シネカノン)A※
71『歩いても 歩いても』(2008年/シネカノン)
70『東京オリンピック』(1965年/東宝)B※
69『弱虫ペダル』(2020年/松竹)B
68『ピンポン』(2002年/アスミック・エース)B
67『犬神家の一族』(2006年/東宝)B
66『華麗なる一族』(2021年/WOWOW)B
65『メメント』(2000年/米)B
64『プレステージ』(2006年/米)B
63『シン・ゴジラ』(2016年/米)A※
62『GODZILLA ゴジラ』(2014年/米)B※

61『見知らぬ乗客』(1951年/米)B
60『断崖』(1941年/米)B
59『間違えられた男』(1956年/米)B
58『下女』(1960年/韓)C
57『事故物件 恐い間取り』(2020年/松竹)C
56『マーウェン』(2019年/米)C
55『かもめ』(2018年/米)B
54『トッツィー』(1982年/米)A※
53『ジュディ 虹の彼方に』(2019年/米)B
52『ザ・ウォーク』(2015年/米)A※
51『マン・オン・ワイヤー』(2008年/米)B※
50『フリーソロ』(2018年/米)A
49『名も無き世界のエンドロール』(2021年/エイベックス・ピクチャーズ)B
48『ばるぼら』(2020年/日、独、英)C
47『武士道無残』(1960年/松竹)※
46『白い巨塔』(1966年/大映)A
45『バンクーバーの朝日』(2014年/東宝)A※
44『ホームランが聞こえた夏』(2011年/韓)B※
43『だれもが愛しいチャンピオン』(2019年/西)B
42『ライド・ライク・ア・ガール』(2019年/豪)B
41『シービスケット』(2003年/米)A※
40『6才のボクが、大人になるまで。』(2014年/米)A※
39『さらば冬のかもめ』(1973年/米)A※
38『30年後の同窓会』(2017年/米)A
37『ランボー ラスト・ブラッド』(2019年/米)C
36『ランボー 最後の戦場』(2008年/米)B
35『バケモノの子』(2015年/東宝)B
34『記憶屋 あなたを忘れない』(2020年/松竹)C
33『水曜日が消えた』(2020年/日活)C
32『永遠の門 ゴッホが見た未来』(2018年/米、英、仏)B
31『ブラック・クランズマン』(2018年/米)A
30『ナイブズ・アウト 名探偵と刃の館の秘密』(2019年/米)A
29『徳川いれずみ師 責め地獄』(1969年/東映)C
28『残酷・異常・虐待物語 元禄女系図』(1969年/東映)B
27『徳川女系図』(1968年/東映)C
26『狂った野獣』(1976年/東映)A
25『一度死んでみた』(2020年/松竹)B
24『ひとよ』(2019年/日活)C
23『パーフェクト・ワールド』(1993年/米)B
22『泣かないで』(1981年/米)C
21『追憶』(1973年/米)B
20『エベレスト 3D』(2015年/米、英、氷)B※
19『運命を分けたザイル』(2003年/英)A※
18『残された者 北の極地』(2018年/氷)C
17『トンネル 9000メートルの闘い』(2019年/諾)C
16『ザ・ワーズ 盗まれた人生』(2012年/米)A※
15『9人の翻訳家 囚われたベストセラー』(2019年/仏、比)A
14『ハウス・オブ・カード 野望の階段 シーズン6』(2018年/米)C
13『大時計』(1948年/米)B
12『汚名』(1946年/米)B
11『マザーレス・ブルックリン』(2019年/米)B
10『エジソンズ・ゲーム』(2017年/米)C
9『ジョン・ウィック:パラベラム』(2019年/米)C
8『ジョン・ウィック:チャプター2』(2017年/米)B
7『ジョン・ウィック』(2014年/米)C
6『容疑者、ホアキン・フェニックス』(2010年/米)C
5『宇宙戦争』(2005年/米)B※
4『宇宙戦争』(1953年/米)B※
3『宇宙戦争』(2019年/英)B
2『AI崩壊』(2020年/ワーナー・ブラザース)B
1『男はつらいよ お帰り 寅さん』(2019年/松竹)

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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