2年前に初めてレイモンド・カーヴァーの初期短編集、村上春樹の翻訳によるこのシリーズの1冊目『頼むから静かにしてくれ』Ⅰ〜Ⅱを読んだとき、正直なところ、僕には彼の面白さがあまりピンとこなかった。
同時代のアメリカの作家でも、カーヴァーを尊敬するリチャード・フォードの作品はダイレクトにこちらの心に刺さってきたのだが、カーヴァーのほうは優れた作品なのだろうな、ということがかろうじてわかるくらい。
ところが、その後になって、円熟の域に達したころの作品を編んだ本書を読むと、どの作品も実に面白い。
一篇一篇が珠玉の作品とも言うべき粒揃いで、カーヴァー夫人の作家テス・ギャラガーよる丁寧な序文『夢の残影』、村上春樹が書いた巻末の詳細な『解題』が、不勉強なこちらの理解を助ける役割を果たしている。
テスが「ダイアモンド・カッターのような精密さで磨きをかけられ」「研ぎ澄まされはりつめた」と評するカーヴァーの文体は、随所でこちらの目を射て、喉を締め上げる。
そういう文体によって浮かび上がるのは、そこには、職も愛も無くして訪れるはずのない幸運やチャンスを待つ男たちや、その男たちの傍らで孤独を託つ女たちの姿だ。
『羽根』の赤ん坊の顔とフランの述懐、『コンパートメント』の寒々とした列車の車内と男の独白、『ささやかだけれど、役に立つこと』のパン屋の長広舌。
『ぼくが電話をかけている場所』の主人公がコレクトコールをかける場面、『熱』で主人公の家の居間がティーンエイジャーに荒らされた光景。
そして、とどめのように最後に収められた名作『大聖堂』のラストシーンが、往年の名作映画のように動いている画として眼前に迫ってくる。
動いている画としてというのはあくまで個人的な捉え方だが、ふたりの人間(ひとりは盲人)が手を携え、一緒に動かしているボールペンの先が、僕には確かに見えたような気がしたのだった。
😁😭😢😌🤔🤓
2021読書目録
面白かった😁 感動した😭 泣けた😢 笑った🤣 驚いた😳 癒された😌 怖かった😱 考えさせられた🤔 腹が立った😠 ほっこりした☺️ しんどかった😖 勉強になった🤓 ガッカリした😞
26『世界最悪の旅 悲運のスコット南極探検隊』アプスレイ・チェリー=ガラード著、加納一郎訳(1993年/朝日新聞社)😁😳🤔😖🤓
25『海峡を越えたホームラン 祖国という名の異文化』関川夏央(1988年/朝日新聞社)😁😭😢🤔🤓
24『1988年のパ・リーグ』山室寛之(2019年/新潮社)😁🤔🤓
23『伝説の史上最速投手 サチェル・ペイジ自伝』サチェル・ペイジ著、佐山和夫訳(1995年/草思社)😁😳🤔🤓
22『レニ・リーフェンシュタールの嘘と真実』スティーヴン・バック著、野中邦子訳(2009年/清流出版)😁😳🤔🤓
21『回想』レニ・リーフェンシュタール著、椛島則子訳(1991年/文藝春秋)😁😳🤔🤓
20『わが母なるロージー』ピエール・ルメートル著、橘明美訳(2019年/文藝春秋)😁
19『監禁面接』ピエール・ルメートル著、橘明美訳(2018年/文藝春秋)😁
18『バグダードのフランケンシュタイン』アフマド・サアダーウィー著、柳谷あゆみ訳(2020年/集英社)😁😳🤓🤔
17『悔いなきわが映画人生』岡田茂(2001年/財界研究所)🤔😞
16『映画界のドン 岡田茂の活動屋人生』文化通信社編著(2012年/ヤマハミュージックメディア)😁😳🤓🤔
15『波乱万丈の映画人生 岡田茂自伝』岡田茂(2004年/角川書店)😁😳🤓
14『戦前昭和の猟奇事件』小池新(2021年/文藝春秋)😁😳😱🤔🤓
13『喰うか喰われるか 私の山口組体験』溝口敦(2021年/講談社)😁😳😱🤔🤓
12『野球王タイ・カップ自伝』タイ・カップ、アル・スタンプ著、内村祐之訳(1971年/ベースボール・マガジン社)😁😳🤣🤔🤓
11『ラッパと呼ばれた男 映画プロデューサー永田雅一』鈴木晰也(1990年/キネマ旬報社)※😁😳🤓
10『一業一人伝 永田雅一』田中純一郎(1962年/時事通信社)😁😳🤓
9『無名の開幕投手 高橋ユニオンズエース・滝良彦の軌跡』佐藤啓(2020年/桜山社)😁🤓
8『臨場』横山秀夫(2007年/光文社)😁😢
7『第三の時効』横山秀夫(2003年/集英社)😁😳
6『顔 FACE』横山秀夫(2002年/徳間書店)😁😢
5『陰の季節』横山秀夫(1998年/文藝春秋)😁😢🤓
4『飼う人』柳美里(2021年/文藝春秋)😁😭🤔🤓
3『JR上野駅公園口』柳美里(2014年/河出書房新社)😁😭🤔🤓
2『芸人人語』太田光(2020年/朝日新聞出版)😁🤣🤔🤓
1『銃・病原菌・鉄 一万三〇〇〇年にわたる人類史の謎』ジャレド・ダイアモンド著、倉骨彰訳(2000年/草思社)😁😳🤔