WOWOW5月の企画〈生誕90年 高倉健特集〉の1本として放映された作品。
中高生のころから58歳の今日まで、見逃したことを非常に悔やんでいた映画なので、大変興味深く観た。
元刑事の私立探偵ハリー・キルマー(ロバート・ミッチャム)は旧友の海運会社社長ハリー・タナー(ブライアン・キース)から、日本のヤクザ・東野組の組長(岡田英次)に誘拐された娘を救い出してほしい、と依頼される。
タナーは裏稼業で武器の密輸をしており、東野に前金で報酬をもらっていながら銃器を調達できなかったため、娘をさらわれて脅迫されていたのだ。
キルマーとタナーとは戦後の占領時代、ともに進駐軍として日本に滞在していた元戦友同士で、旧知のヤクザ・田中健(高倉健)に協力を求めることになる。
キルマーは終戦当時、ひとり娘を抱えた田中の妹・英子(岸恵子)と愛し合って求婚、これを戦死した夫に操を立てた英子に固辞されると、バーの開店資金まで提供したほどの間柄だった。
いまではヤクザから足を洗い、京都の剣道場で師範となっていた健は、かつて妹の英子が助けられた義理から、キルマーの依頼を快諾。
健、キルマー、タナーが用心棒兼連絡役として同行させていたダスティ(リチャード・ジョーダン)は、タナーの娘が監禁されていた寺に侵入し、娘を奪い返すことに成功する。
ところが、東野はその裏側で秘かにタナーと手打ちを行い、健とキルマーの命を狙い始めた。
自分の仕事を終えたキルマーはアメリカへの帰国を思いとどまり、健の兄で日本のヤクザを束ねる長老格・五郎(ジェームズ繁田)に相談。
東野の子分たちはキルマーが身を寄せていた進駐軍時代の旧友オリヴァー・ウィート(ハーブ・エデルマン)の家を襲撃し、ダスティと英子の娘・花子(クリスティーナ・コクボ)が殺されてしまう。
この事態に、五郎はキルマーと健が東野を殺すことに同意するが、東野の子分になっている自分の息子・四郎(郷鍈治)だけは見逃してほしいと頼む。
五郎はこのとき、自分が健の兄ではないこと、健も英子の兄ではなく、れっきとした夫であったことをキルマーに告白。
健は戦後、復員したときに妻の英子が「ガイジン」と同棲していることを知って激怒したが、キルマーから英子と花子が大きな恩義を受けていたことから、兄と偽っていたのだ。
こうして秘められた人間関係と葛藤が浮き彫りにされ、東映任侠映画さながらに観ているこちらを前のめりにさせると、まずキルマーがタナーを撃ち、次にクライマックスで健が東野を斬って落とし前をつける。
健は乱闘の最中、やむを得ず四郎を殺してしまい、キルマーとともに五郎の元へ謝罪に出向いた田中は、五郎の制止を振り切り、詫びの印として指を詰めた。
ここで大団円かと思われた幕切れの手前、キルマーが帰国直前、健のアパートを訪ね、彼の妻・英子を奪った詫びとして、自分の指を詰めたことには少々驚いたが、日本人にとっては駄目押し的納得のオチになっている。
ハンカチに収められた指を渡された健は、キルマーの「これ以上はない友情」の証として受け取った。
原作は日本の同志社大学、京都大学で講師を務めた経験を持つレナード・シュレイダーで、日本滞在中は実際に暴力団関係者、当時の言葉で言えば任侠団体関係者と親交を築いて取材を重ねたという。
映画化に当たって、やはり日本文学やヤクザ映画に造詣の深い弟ポールとともに脚本を執筆。
そのため、登場人物同士が「義理」「任侠」「貸し借り」など、日本固有の精神文化に言及したセリフが非常に多い。
高倉健がジョーダンに「義理」について語るくだり、ミッチャムと繁田が日本人の思考や行動原理について話し合う場面はとくに印象に残る。
製作には東映の俊藤浩滋がエグゼクティヴ・プロデューサーとして参加し、東野組での乱闘場面などはフリーの名キャメラマンとして知られる岡崎宏三が撮影を担当している。
1970年代の新宿歌舞伎町にロケし、デジタルリマスター処理されたシーンなど、オールドファンの郷愁と琴線を刺激する場面も多い。
日本のヤクザを描いたアメリカ映画でこれほどの理解度と完成度を示した作品はほかになく、やはり高倉健が出演した『ブラック・レイン』(1989年)をも凌ぐ出来栄えと言っていい。
とりわけ、健さんとミッチャムが指を詰めるところで、本家東映のような美学や情緒以上に、彼らの動機を論理的にきっちりと描いているところは、アメリカ的なアプローチが成功した名場面。
シュレイダー兄弟による脚本に描かれた日本ヤクザのスピリットを、『大いなる勇者』(1972年)、『追憶』(1973年)などで脂が乗り切っていたころの名匠シドニー・ポラックがきっちり映像化していることも指摘しておきたい。
今時の映画ファンには異論もあるだろうが、こういう生真面目に作られたハリウッド製ヤクザ映画は後にも先にもこの1本だけだ。
オススメ度A。
ブルーレイ&DVDレンタルお勧め度2021リスト
A=ぜひ!🤗 B=よかったら😉 C=気になったら🤨 D=ヒマだったら😑
※再見、及び旧サイトからの再録
109『健さん』(2016年/レスぺ)B
108『ゴルゴ13』(1973年/東映)D
107『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』(2015年/伊)B※
106『スタントウーマン ハリウッドの知られざるヒーローたち』(2020年/米)A
105『真犯人』(2019年/韓)B
104『ダイヤルM』(1998年/米)B※
103『ダイヤルMを廻せ!』(1954年/米)A
102『私は告白する』(1953年/米)A
101『黄泉がえり』(2003年/東宝)B
100『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』(1994年/米)B
99『ワンダーウーマン 1984』(2020年/米)B
98『博士と狂人』(2019年/英、愛、仏、氷)C
97『追悼のメロディ』(1976年/仏)A※
96『デ・パルマ』(2015年/米)B
95『ブルース・スプリングスティーン 闇に吠える街 30周年記念ライブ2009』(2009年/米)B
94『ブルース・スプリングスティーン ライブ・イン・バルセロナ』(2003年/米)A
93『ブルース・スプリングスティーン ライブ・イン・ニューオリンズ2006~ニューオリンズ・ジャズ・フェスティバル』(2006年/米)B
92『ウエスタン・スターズ』(2019年/米)B
91『水上のフライト』(2020年/KADOKAWA)C
90『太陽は動かない』(2021年/ワーナー・ブラザース)C
89『ファナティック ハリウッドの狂愛者』(2019年/米)C
88『ミッドウェイ』(2019年/米、中、香、加)B
87『意志の勝利』(1934年/独)A
86『美の祭典』(1938年/独)B
85『民族の祭典』(1938年/独)A
84『お名前はアドルフ?』(2018年/独)B
83『黒い司法 0%からの奇跡』(2019年/米)A
82『野球少女』(2019年/韓)B
81『タイ・カップ』(1994年/米)A※
80『ゲット・アウト』(2017年/米)B※
79『アス』(2019年/米)C
78『ふたりのJ・T・リロイ ベストセラー作家の裏の裏』(2018年/米)C
77『キング・オブ・ポルノ』(2000年/米)B※
76『怒りの葡萄』(1940年/米)A
75『パブリック 図書館の奇跡』(2018年/米)A
74『バクラウ 地図から消された村』(2019年/伯、仏)B
73『そして父になる』(2013年/ギャガ)A※
72『誰も知らない』(2004年/シネカノン)A※
71『歩いても 歩いても』(2008年/シネカノン)
70『東京オリンピック』(1965年/東宝)B※
69『弱虫ペダル』(2020年/松竹)B
68『ピンポン』(2002年/アスミック・エース)B
67『犬神家の一族』(2006年/東宝)B
66『華麗なる一族』(2021年/WOWOW)B
65『メメント』(2000年/米)B
64『プレステージ』(2006年/米)B
63『シン・ゴジラ』(2016年/米)A※
62『GODZILLA ゴジラ』(2014年/米)B※
61『見知らぬ乗客』(1951年/米)B
60『断崖』(1941年/米)B
59『間違えられた男』(1956年/米)B
58『下女』(1960年/韓)C
57『事故物件 恐い間取り』(2020年/松竹)C
56『マーウェン』(2019年/米)C
55『かもめ』(2018年/米)B
54『トッツィー』(1982年/米)A※
53『ジュディ 虹の彼方に』(2019年/米)B
52『ザ・ウォーク』(2015年/米)A※
51『マン・オン・ワイヤー』(2008年/米)B※
50『フリーソロ』(2018年/米)A
49『名も無き世界のエンドロール』(2021年/エイベックス・ピクチャーズ)B
48『ばるぼら』(2020年/日、独、英)C
47『武士道無残』(1960年/松竹)※
46『白い巨塔』(1966年/大映)A
45『バンクーバーの朝日』(2014年/東宝)A※
44『ホームランが聞こえた夏』(2011年/韓)B※
43『だれもが愛しいチャンピオン』(2019年/西)B
42『ライド・ライク・ア・ガール』(2019年/豪)B
41『シービスケット』(2003年/米)A※
40『6才のボクが、大人になるまで。』(2014年/米)A※
39『さらば冬のかもめ』(1973年/米)A※
38『30年後の同窓会』(2017年/米)A
37『ランボー ラスト・ブラッド』(2019年/米)C
36『ランボー 最後の戦場』(2008年/米)B
35『バケモノの子』(2015年/東宝)B
34『記憶屋 あなたを忘れない』(2020年/松竹)C
33『水曜日が消えた』(2020年/日活)C
32『永遠の門 ゴッホが見た未来』(2018年/米、英、仏)B
31『ブラック・クランズマン』(2018年/米)A
30『ナイブズ・アウト 名探偵と刃の館の秘密』(2019年/米)A
29『徳川いれずみ師 責め地獄』(1969年/東映)C
28『残酷・異常・虐待物語 元禄女系図』(1969年/東映)B
27『徳川女系図』(1968年/東映)C
26『狂った野獣』(1976年/東映)A
25『一度死んでみた』(2020年/松竹)B
24『ひとよ』(2019年/日活)C
23『パーフェクト・ワールド』(1993年/米)B
22『泣かないで』(1981年/米)C
21『追憶』(1973年/米)B
20『エベレスト 3D』(2015年/米、英、氷)B※
19『運命を分けたザイル』(2003年/英)A※
18『残された者 北の極地』(2018年/氷)C
17『トンネル 9000メートルの闘い』(2019年/諾)C
16『ザ・ワーズ 盗まれた人生』(2012年/米)A※
15『9人の翻訳家 囚われたベストセラー』(2019年/仏、比)A
14『ハウス・オブ・カード 野望の階段 シーズン6』(2018年/米)C
13『大時計』(1948年/米)B
12『汚名』(1946年/米)B
11『マザーレス・ブルックリン』(2019年/米)B
10『エジソンズ・ゲーム』(2017年/米)C
9『ジョン・ウィック:パラベラム』(2019年/米)C
8『ジョン・ウィック:チャプター2』(2017年/米)B
7『ジョン・ウィック』(2014年/米)C
6『容疑者、ホアキン・フェニックス』(2010年/米)C
5『宇宙戦争』(2005年/米)B※
4『宇宙戦争』(1953年/米)B※
3『宇宙戦争』(2019年/英)B
2『AI崩壊』(2020年/ワーナー・ブラザース)B
1『男はつらいよ お帰り 寅さん』(2019年/松竹)