【きょう9日発売!】東京スポーツ『赤ペン!!』345/深澤弘さんを悼む

「バッター○○、打った、打った。ショート○○、追いつけない。
グラブの先は、打球が空を切る風の音を聞いたでしょう」

ラジオ中継の名アナウンサー、元ニッポン放送の深沢弘さんが85歳で亡くなったと聞いたとき、かつての詩情を感じさせる名調子が耳の奥に蘇った。
いわゆる美声でもなければ、ひところ流行った絶叫調でもなく、淡々とした中にも静かな熱気を感じさせる実況だった。

この時は、隣で解説していた長嶋茂雄さん曰く「ええ、私も見ました、瞬時にして見たんですが」。
誰にも真似のできない絶妙の掛け合いに、神宮の記者席で聞いていた記者たちの間でドッと笑いが弾けた。

確か、長嶋一茂がヤクルトの選手として出場していた1989年の巨人戦だったと思う。
深沢さんは長嶋さんとじっこんの間柄だった。

生前のご本人によれば、75年頃に長嶋さんから誘われて食事をするようになったのがきっかけ。
やがて、後楽園での試合後に田園調布の自宅までつれていかれ、長嶋さんの素振りを見せられ、「気がついたことを言え」と言われ、しまいには中庭で打撃投手までさせられ、それが延々と午前2時まで続いたそうだ。

そして、長嶋さんが第2次政権をスタートさせた93年以降、深沢さんは長嶋さんの密使としてFA選手の獲得にも貢献していた。
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スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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