『波乱万丈の映画人生 岡田茂自伝』岡田茂😁😳🤓

238ページ 角川書店 初版:2004年5月31日 定価1700円=税別

元東映の名物社長・岡田茂が2002年9月、日本経済新聞の人気企画『私の履歴書』に1カ月連載した記事を、大幅に加筆・修正した上、一冊にまとめたもの。
東映最後の黄金時代を築き、日本アカデミー賞の創立にも尽力して、一時は「映画界のドン」と言われた人物の自伝だけに、興味津々で手に取った。

大正13(1924)年生まれの岡田は僕と同じ広島出身だが、僕のような劣等生とは違い、広島一中、広島高校から東京帝大経済学部に進んだ超優等生、かつ柔道部の強豪としても鳴らした文武両道の人物。
大学卒業前は「戦後は製造業の世の中になるだろう」と、漠然と地元の東洋工業(現マツダ)のような大企業への就職を考えていたところ、同郷の先輩に誘われて東横映画、のちの東映に入社する。

駆け出しの助監督時代、『金色夜叉』(1947年)の撮影中、マキノ雅弘監督にいきなり「ホンモノのバックダンサーを集めてこい」と無理難題を吹っかけられるも、機転を働かせて25人の女性ダンサーを招集。
彼女たちにくっついてギャラを寄越せとねじ込んできたヤクザも追い返すことに成功し、出世のきっかけをつかむ。

美空ひばりのクレジットの扱いをめぐって山口組3代目・田岡一雄の説得に当たったとか、映画の本場ハリウッドへ視察旅行するにあたって大映社長・永田雅一に紹介状を書いてもらったとか、昭和の大物が次々に登場するあたりはやはり面白い。
ひばりは萬屋錦之介にぞっこんで、錦之介が結婚したあと、自分が小林旭と結婚したのも半ば当てつけで、心中は相変わらず錦之介一筋だった、というくだりが切なくも興味深い。

また、岡田はタイトルにこだわりを持っていたことでも知られており、傑作だったと自慢しているのが『大奥㊙︎物語』(1967年)や『緋牡丹博徒』(1968年)。
いまでこそ当たり前のタイトルのように感じられるが、公開当時は「㊙︎」を入れることにも、「緋牡丹」と「博徒」をくっつけることにも、周囲のスタッフや営業担当者はキョトンとしていたそうだ。

小川真由美と緑魔子のトルコ嬢(現ソープ嬢)姉妹が一人の男を奪い合う『二匹の牝犬』(1964年)は、配役もさりながら、タイトルで当たったような映画だという。
タイトルの付け方で重要なのは「勘」だそうで、「何とはなしに」製作した『二匹の牝犬』のような映画が当たるとは思わなかった、と述懐しているあたり、いい気なようでいて、なるほどな、と思わせられる。

できることなら、エグいタイトルを連発したエログロ路線、タイトルのせいで国鉄に協力を拒否されたという『新幹線大爆破』(1975年)の裏話なども読みたかった。
しかし、初出が日経の連載で、自伝という体裁では、そこまで踏み込めなかったのもやむを得ぬところか。

東映ファンにとっては必読の一冊。
ただ、映画人のノンフィクションとしては、田中純一郎著『一業一人伝 永田雅一』(1962年/時事通信社)に比べるといまひとつかな。

😁😳🤓

2021読書目録
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14『戦前昭和の猟奇事件』小池新(2021年/文藝春秋)😁😳😱🤔🤓
13『喰うか喰われるか 私の山口組体験』溝口敦(2021年/講談社)😁😳😱🤔🤓
12『野球王タイ・カップ自伝』タイ・カップ、アル・スタンプ著、内村祐之訳(1971年/ベースボール・マガジン社)😁😳🤣🤔🤓
11『ラッパと呼ばれた男 映画プロデューサー永田雅一』鈴木晰也(1990年/キネマ旬報社)※😁😳🤓
10『一業一人伝 永田雅一』田中純一郎(1962年/時事通信社)😁😳🤓
9『無名の開幕投手 高橋ユニオンズエース・滝良彦の軌跡』佐藤啓(2020年/桜山社)😁🤓
8『臨場』横山秀夫(2007年/光文社)😁😢
7『第三の時効』横山秀夫(2003年/集英社)😁😳
6『顔 FACE』横山秀夫(2002年/徳間書店)😁😢
5『陰の季節』横山秀夫(1998年/文藝春秋)😁😢🤓
4『飼う人』柳美里(2021年/文藝春秋)😁😭🤔🤓
3『JR上野駅公園口』柳美里(2014年/河出書房新社)😁😭🤔🤓
2『芸人人語』太田光(2020年/朝日新聞出版)😁🤣🤔🤓
1『銃・病原菌・鉄 一万三〇〇〇年にわたる人類史の謎』ジャレド・ダイアモンド著、倉骨彰訳(2000年/草思社)😁😳🤔🤓

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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