西武戦の取材でメットライフドームへ向かっている途中、電車内で読む本を忘れたことに気づき、西武池袋駅構内のくまざわ書店で購入した溝口敦さんの回顧録。
さっそく読み始めたらあまりの面白さに止まらなくなり、球場に到着してからも試合前までこの本に没頭していた。
溝口さんは言うまでもなく、山口組をはじめとする広域暴力団、及び反社会勢力と結びついたハンナン、細木数子などについての詳細なルポルタージュで知られたノンフィクション作家。
代表作のいくつかは僕も読んでいて、本書の発行人・鈴木章一さんが週刊現代の編集長を務めていたころは、拙文と同じ号に連載原稿が掲載されていた時期もある。
正直に書くが、取り組んでいるジャンルは異なるものの、溝口さんの仕事にはいつも、僕などが逆立ちしても到底真似できるものではないと感嘆させられてきた。
闇社会の住人を相手に綿密な取材を重ね、冷静な視点で事件の真相や組織の問題点を抉り出し、批判すべき点には遠慮会釈のない筆誅を加える。
当然、ヤクザや詐欺師に恨みを買わないわけがなく、溝口さんが高田馬場の仕事場近くでヤクザの下っ端に刺され、子息まで危害を受けたこともあった。
一度でもそういう目に遭ったら、やはり暴力団員に襲われた伊丹十三のように、大変なショックを受け、ダメージを引きずり、その後の取材活動まで断念してしまいかねない、というのが普通の人間の感覚だろう(伊丹の事件は本書でも取り上げられている)。
ところが、溝口さんは復讐心に燃え、自費で弁護団を組織し、暴力団を訴えて真っ向から対決を挑んでいるのだ。
その一方で、反社会勢力の取材も継続し、広域暴力団や系列組織のニュースソースとは変わらぬ信頼関係を築いているところが溝口さんの凄さである。
しかも、原稿によっては、信頼できる組長クラスの人間に事前に読んでもらい、事実関係のチェックまでしてもらっている。
僕が関わっているスポーツの世界とは違い、ネットで検索すればある程度のことはわかる、という世界ではないから、誤報や間違いを防ぐためにはまことに合理的な方法ではあるのだが、それにしても、ここまでやるのかと改めて驚いた。
溝口さん自身はいわゆる極道ファンではなく、山口組5代目・渡辺芳則、映画『仁義なき戦い』(1973年)で有名な美濃幸三などは大した極道ではないとしてバッサリ斬り捨てている。
とくに渡辺には長時間インタビューしておきながら、当初は記事化する魅力を感じず、のちに破棄するのももったいないからと、無断でおちょくった記事にしているあたりは、溝口さん以外にはできない芸当だろう。
また、本書には冒頭に記した講談社の鈴木さんをはじめ、わが古巣・日刊現代の社長になった川鍋孝文さん、総務部長だった佐藤正晃さんなど、僕自身がお世話になった方々に加え、東京スポーツの太刀川正樹会長なども登場。
そうした人々の顔が次から次へと脳裏をよぎって、昔は面白い人たちが多かったなあ、という感慨も沸いた。
羨ましかったのは、溝口さんが本業のノンフィクションとは別に、取材で得たネタを元にエンタメ小説を書き、結構売れたというくだり。
実は、僕もフリーになりたてのころ、この二刀流路線を狙い、いずれは小説にも力を入れようと考えていたのだが、『情報源』(2006年/講談社)というミステリを1冊書いただけであえなく頓挫してしまった。
😁😳😱🤔🤓
2021読書目録
面白かった😁 感動した😭 泣けた😢 笑った🤣 驚いた😳 癒された😌 怖かった😱 考えさせられた🤔 腹が立った😠 ほっこりした☺️ しんどかった😖 勉強になった🤓 ガッカリした😞
12『野球王タイ・カップ自伝』タイ・カップ、アル・スタンプ著、内村祐之訳(1971年/ベースボール・マガジン社)😁😳🤣🤔🤓
11『ラッパと呼ばれた男 映画プロデューサー永田雅一』鈴木晰也(1990年/キネマ旬報社)※😁😳🤓
10『一業一人伝 永田雅一』田中純一郎(1962年/時事通信社)😁😳🤓
9『無名の開幕投手 高橋ユニオンズエース・滝良彦の軌跡』佐藤啓(2020年/桜山社)😁🤓
8『臨場』横山秀夫(2007年/光文社)😁😢
7『第三の時効』横山秀夫(2003年/集英社)😁😳
6『顔 FACE』横山秀夫(2002年/徳間書店)😁😢
5『陰の季節』横山秀夫(1998年/文藝春秋)😁😢🤓
4『飼う人』柳美里(2021年/文藝春秋)😁😭🤔🤓
3『JR上野駅公園口』柳美里(2014年/河出書房新社)😁😭🤔🤓
2『芸人人語』太田光(2020年/朝日新聞出版)😁🤣🤔🤓
1『銃・病原菌・鉄 一万三〇〇〇年にわたる人類史の謎』ジャレド・ダイアモンド著、倉骨彰訳(2000年/草思社)😁😳🤔🤓