オープニング、カテリーナ・カットという10代の少女が、ベルゲン・ベルゼン収容所の跡地にあるアンネ・フランクと姉マルゴットの墓碑を訪ねる(ただし遺体は発見されていないので何も埋まっていない)。
15歳で死んだ(虐殺された)アンネと同年代のカテリーナは、「アンネ、あなたに何があったの? あなたについてのすべてを私は知りたい」とSNSに投稿。
こうしてカテリーナはフランスやイタリアを旅して回り、ショア(大量虐殺を意味する言葉)を生き延びたユダヤ人のサバイバー(強制収容所の生残者を意味する言葉)たちのインタビュー映像が紹介される。
ただし、カテリーナのプロフィールは不明で、彼女がサバイバーたちと直接会話を交わしている場面もなく、このドキュメンタリーが何を狙っているのかわからず、序盤はいささか戸惑いを感じた。
サバイバーたちのインタビューの間、75歳のオスカー女優ヘレン・ミレンが『アンネの日記』を朗読し、当時のアンネが置かれた状況や彼女の気持ちを解説する。
ミレンはロシア貴族出身の父とイギリス人の母の間に生まれているが、『黄金のアデーレ 名画の帰還』(2015年)で実在のユダヤ人女性マリア・アルトマンを演じ、世界ユダヤ人会議から特別名誉賞を贈られている。
そのミレンが語る当時のアンネと、そのアンネと同世代の少女で、自分の子供や孫を抱えるサバイバーたちが交互に出てくる画面を観ているうち、作り手の意図がこちらにもだんだんわかってくる。
戦後70年以上が経過し、戦争を知らないサバイバーたちの孫やひ孫の世代、とりわけかつてのアンネ・フランクと同じ10代の若者たちに、アウシュビッツ、リガ、ベルゲン・ベルゼンの収容所で何があったのか、そこでユダヤ人の身に起こったことをどう伝えるべきか、というテーマを本作は提示しているのだ。
日本においても近年、広島・長崎の原爆、東京大空襲、沖縄におけるひめゆり学徒隊の生残者などが年々減っていき、戦争の悲劇を伝えることが次第に難しくなりつつある。
また、戦争を知らない先進諸国の若者たちに、虐殺の実情や犠牲者の映像をダイレクトに見せつけると、かえって拒否反応を招き、のちの世代に語り継がれなくなる可能性も大きい。
それでは、いまを生きるわれわれは、どのようにしてアンネの短い生涯とユダヤ人虐殺を伝えればよいのか。
後世への伝承をテーマとした本作は、『アンネの日記』の本を朗読するミレンと、SNSで自分の印象を投稿する10代のカテリーナが出会う場面で締め括られる。
このエンディングに、涙が滲んだ。
現代にホロコーストを伝えるドキュメンタリーとしてはいささか舌足らずな部分も多く、決して成功作とは言えないが、人類の未来に目を向けた真摯な試みであることは評価したい。
オススメ度B。
A=ぜひ!🤗😱 B=よかったら😉 C=気になったら🤨 D=ヒマだったら😑