BS世界のドキュメンタリー『アガサ・クリスティーの世界』(NHK-BS1)😉

Inside The Mind of Agatha Christie
45分 2019年 制作:イギリス=Knickerbockerglory 
初放送:2020年12月10日午後11時〜11時50分 再放送:2021年6月11日(金)午後3時5分〜3時50分

誰でも一冊はこの人の小説を読んだ、もしくは映画やテレビドラマ化された作品を一度は観たことがあるだろう世界的ミステリー作家アガサ・クリスティーの生涯と創作の秘密をわかりやすく解説したドキュメンタリー。
ミステリーの女王はイギリス南西部のトーキーで恵まれた家庭環境に生まれ、孤独だった少女時代に読書で想像力を磨き、看護師と従軍した第一次世界大戦中に毒物についての知識を身につけたのち、離婚と再婚、新たな発見を求めた中東旅行で人生観と文学観を確立させていった。

僕が一番注目したのはやはり、1926年、『アクロイド殺し』を発表し、ベストセラーとなった直後の失踪事件である。
引き金となったのは、大戦中に知り合って結婚した夫アーチボルド・クリスティーに、他に好きな女性ができたから離婚してほしいと切り出されたこと。

このくだりでは、現存しているアガサのインタビューテープの音声が紹介され、この中で彼女は「女にとっては妻が本業、私は副業として本を書いているのです」と語っている。
夫アーチーとの間には当時7歳の一人娘もいただけに、突然別れてほしいと言われたときのアガサのショックは相当なものだったようで、ひとり自宅から離れたイギリス北部のハロゲートにある温泉施設(現オールド・スワン・ホテル)へ傷心の旅に出たことが、世間には失踪事件として捉えられた。

アガサがここの宿泊者名簿に夫アーチーの愛人ナンシー・ニールの名前をもじったテレサ・ニールと記し、1泊5ギニーの部屋に滞在していたことは初めて知った。
しかし、マスコミと世間が大騒ぎし、警察が全国的な捜査に乗り出す中、11日間も身を隠し続けた真相は、結局いまでも謎のままだと、本作は結論づけている(あるいは不用意な推論を避けている)。

この失踪事件は1979年に『アガサ 愛の失踪事件』として映画化され、高い評価を得ており、僕も劇場公開時に広島のスカラ座(現在は閉館)で観ている。
ヴァネッサ・レッドグレーブがアガサ、アーチーを4代目ジェームズ・ボンドのティモシー・ダルトンを演じ、マイケル・アプテッド監督の出世作となったが、このドキュメンタリーで触れられていないのは残念。

オススメ度B。

Agatha 98分 1979年 イギリス、アメリカ=ワーナー・ブラザース

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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