最近、これほど老いと死を強烈に意識させられたドキュメンタリーもほかにない。
オープニング、テレビやパソコンに映った他国の政治家がゴルバチョフについて語る映像を見つめている89歳のゴルバチョフ自身は、精悍さと聡明さを併せ持ったかつての面影をなくし、別人のように太っている。
頭髪は以前から薄かったが、濃かった眉毛が抜け、残った部分も白くなり、目元もどこか眠たげに見える。
もし、名前を知らずにこの映像だけを見たら、この老人があのソ連を崩壊させた最後の共産党中央委員会書記長、ミハイル・セルゲーエヴィチ・ゴルバチョフだとは気がつかないかもしれない。
本作は過去のゴルバチョフの映像をほとんど挿入せず、ナレーションによる背景説明も加えず、ただインタビュアー(監督のヴィタリー・マンスキー?)との会話のみによって構成されている。
寄稿文を新聞社(プラウダ?)に掲載拒否されて「ゴルバチョフの時代は終わった」と言われたことを打ち明け、「終わったんじゃない、これから始まるんだ」とゴルバチョフは主張。
さらに、ソ連が崩壊して失脚した直後、自分の全財産はモスクワの小さなアパート1軒だけだったこと、現在の住居はソ連崩壊とともに独立した国家元首にプレゼントされたもので、死ぬまで住んでいいと言われていることなどを明け透けに語る。
最も印象的なのは、現在のプーチン大統領と会うことになった際、三度呼ばれて三度とも待ちぼうけを食わされ、ついに一度も会えずに終わった、と打ち明けているくだり。
ゴルバチョフがいまだにレーニンを尊敬しているという理由、独自の社会主義論や民主主義論もそれなりに興味深いが、こういう理念をきちんと理解するには、観る側もしっかり予習と復習をすることが必要だろう。
この貴重なインタビュー映像をじっと見入っていると、もっとじっくり鑑賞したくなるが、放送時間45分はあまりに短い。
ちなみに、本作のオリジナル版は100分で、このNHK版は番組の枠内に収めるためか、半分以上もカットされている。
しかも、『クンバカルナ 神の山への登頂』の項でも指摘したように、それだけ大幅にカットしていることを、NHKは番組内でも番組の公式ホームページでも説明していない。
さりとて、独力でノーカット版を観ようとしても、日本語字幕付きバージョンはネット配信されておらず、当然ビデオソフト化もされていない。
NHKには完全な形での再放送、及びオンデマンド配信を望む。
オススメ度B。