『マーウェン』(WOWOW)🤨

Welcome To Marwen 
116分 アメリカ=ユニバーサル・ピクチャーズ 日本公開:2019年 パルコ

WOWOWの人気長寿番組〈W座からの招待状〉で放送された1本で、最初にMCの小山薫堂、信濃八太郎両氏がそろって「監督がロバート・ゼメキスですからね」といかにも期待させるようなことを言っておきながら、映画が終わるとふたりとも態度が一変。
信濃氏が「正直、いまひとつでした」と本音を漏らせば、小山氏も「途中からゼメキスが自分のために作ってるような感じになっちゃって」と、ゼメキスの悪ノリぶりを批判している。

オープニング、第2次世界大戦中の1942年、ベルギー上空を飛んでいるアメリカ空軍の戦闘機が登場し、対空砲火を受けて不時着。
コクピットから脱出したパイロット、ホーギー大尉(スティーヴ・カレル)は燃えた軍靴を捨て、たまたま拾った女性用のハイヒールを履いて歩いているところを、ドイツ兵に取り囲まれ、武器を奪われてしまう。

コクピットで人間だったホーギーは不時着後にフィギュアのアニメーションに変わり、ドイツ兵もすべてフィギュアなら、どこからともなく突然現れてドイツ兵を薙ぎ倒す女兵士たちもみんなフィギュア。
ヘンな出だしだな、ゼメキスも変わったことをやるな、と思っていたら、実は現実のホーギー、マーク・ホーガンキャンプが作った6/1スケールのフィギュアとジオラマだということがわかる。

タイトルの「マーウェン」とは、マークが自宅の中庭に作っている架空のベルギーの街。
彼はこの街にいる自分の分身、ホーギー大尉と彼を取り囲む美女たち、彼らとナチスが戦いを繰り広げる世界を写真に撮って発表しているアーティストなのである。

マークは実在の人物で、かつては売れっ子のイラストレーターだったという。
冒頭で示されているように、女性用のハイヒールを収集する趣味を持っており、これを酒場でからかわれ、5人の男に寄ってたかって暴行されるヘイトクライム(憎悪犯罪)の餌食になり、重い記憶障害とPTSDを患った。

事件後は結婚していた過去の記憶を失い、イラストの仕事もできなくなって、心理療法の一環としてフィギュアとジオラマを作り、その世界に引きこもっているのだ。
暴行を加えた犯人たちは逮捕されて有罪が確定しているが、裁判所で重い量刑を科すためにはマーク自身が出廷し、どれほどひどい被害を受けたかを証言しなければならない。

映画はそうしたマークの過酷な現実とフィギュアの架空の世界を行ったり来たりしながら進行する。
その両者がうまくシンクロしていれば大変感動的な作品になっただろうけれど、小山、信濃両氏も指摘していたように、ゼメキスはフィギュアの世界に傾斜し過ぎていて、次第に脱線ぶりばかりがエスカレートしていく。

とくに、クライマックスでフィギュアの魔女デジャ・ソリス(ダイアン・クルーガー)がゼメキスの代表作『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(1985年)のデロリアンを乗り回しているあたりは、元ネタを観ていない今時のファンには理解しにくいだろう。
素材自体は非常に興味深く、主人公マーク役のスティーヴ・カレルをはじめ、ニコル役のレスリー・マン、ホビー・ショップ店長ロバータ役メリット・ウェヴァーなど、役者もみんななかなかの好演。

それだけに、チグハグな出来栄えになってしまったのは何とも惜しい。
ただ、いまや名匠となったゼメキスが全体のバランスを無視し、どう批評されても構うものかとばかり、やりたい放題やっていると珍しい作品、という意味で、コアなゼメキスファンなら興味深く鑑賞できるかもしれません。

オススメ度C。

ブルーレイ&DVDレンタルお勧め度2021リスト
A=ぜひ!🤗 B=よかったら😉 C=気になったら🤨  D=ヒマだったら😑
※再見、及び旧サイトからの再録

55『かもめ』(2018年/米)B
54『トッツィー』(1982年/米)A※
53『ジュディ 虹の彼方に』(2019年/米)B
52『ザ・ウォーク』(2015年/米)A※
51『マン・オン・ワイヤー』(2008年/米)B※
50『フリーソロ』(2018年/米)A
49『名も無き世界のエンドロール』(2021年/エイベックス・ピクチャーズ)B
48『ばるぼら』(2020年/日、独、英)C
47『武士道無残』(1960年/松竹)※
46『白い巨塔』(1966年/大映)A
45『バンクーバーの朝日』(2014年/東宝)A※
44『ホームランが聞こえた夏』(2011年/韓)B※
43『だれもが愛しいチャンピオン』(2019年/西)B
42『ライド・ライク・ア・ガール』(2019年/豪)B
41『シービスケット』(2003年/米)A※
40『6才のボクが、大人になるまで。』(2014年/米)A※
39『さらば冬のかもめ』(1973年/米)A※
38『30年後の同窓会』(2017年/米)A
37『ランボー ラスト・ブラッド』(2019年/米)C
36『ランボー 最後の戦場』(2008年/米)B
35『バケモノの子』(2015年/東宝)B
34『記憶屋 あなたを忘れない』(2020年/松竹)C
33『水曜日が消えた』(2020年/日活)C
32『永遠の門 ゴッホが見た未来』(2018年/米、英、仏)B
31『ブラック・クランズマン』(2018年/米)A
30『ナイブズ・アウト 名探偵と刃の館の秘密』(2019年/米)A
29『徳川いれずみ師 責め地獄』(1969年/東映)C
28『残酷・異常・虐待物語 元禄女系図』(1969年/東映)B
27『徳川女系図』(1968年/東映)C
26『狂った野獣』(1976年/東映)A
25『一度死んでみた』(2020年/松竹)B
24『ひとよ』(2019年/日活)C
23『パーフェクト・ワールド』(1993年/米)B
22『泣かないで』(1981年/米)C
21『追憶』(1973年/米)B
20『エベレスト 3D』(2015年/米、英、氷)B※
19『運命を分けたザイル』(2003年/英)A※
18『残された者 北の極地』(2018年/氷)C
17『トンネル 9000メートルの闘い』(2019年/諾)C
16『ザ・ワーズ 盗まれた人生』(2012年/米)A※
15『9人の翻訳家 囚われたベストセラー』(2019年/仏、比)A
14『ハウス・オブ・カード 野望の階段 シーズン6』(2018年/米)C
13『大時計』(1948年/米)B
12『汚名』(1946年/米)B
11『マザーレス・ブルックリン』(2019年/米)B
10『エジソンズ・ゲーム』(2017年/米)C
9『ジョン・ウィック:パラベラム』(2019年/米)C
8『ジョン・ウィック:チャプター2』(2017年/米)B
7『ジョン・ウィック』(2014年/米)C
6『容疑者、ホアキン・フェニックス』(2010年/米)C
5『宇宙戦争』(2005年/米)B
4『宇宙戦争』(1953年/米)B
3『宇宙戦争』(2019年/英)B
2『AI崩壊』(2020年/ワーナー・ブラザース)B
1『男はつらいよ お帰り 寅さん』(2019年/松竹)C

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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