妻と2人の子を持つ34歳のゴミ収集員・岳裕介の仕事と日常を描いたドキュメンタリー。
昨年12月にNHK総合〈プロフェッショナル仕事の流儀〉で制作・放送され、今年の4月に〈BS1スペシャル〉の1本として再放送された。
岳が暮らす横浜市は年間のゴミ排出量が122万トンに上る、全国の市町村で「日本一ゴミの多い街」だ。
そういう街の民間ゴミ処理会社に勤務し、1日で200軒のゴミ捨て場を回って、3万トンものゴミを朝早いうちにたったひとりで回収するのが岳の仕事である。
毎日、深夜2時に起床し、「飲み物代もバカにならないから」と飲料水を水筒に入れ、回収トラックで街中へ出勤。
ただゴミを集めて回るだけでも大変なのに、カラスが食い散らかした生ゴミを拾って回ったり、ビン・カンを収集する際の音がうるさいという住民のクレームに対応したり、50人抱えた部下から携帯電話にかかってくる質問や相談にも答えなければならない。
観ていてこちらの胸が痛んだのは、岳がゴミの分別について居酒屋の店長や従業員を説得して回るくだり。
誰もがついやりがちなことだが、割れたビンや皿の破片を、一つや二つならいいだろうと、燃えるゴミと一緒くたにしてゴミ袋に入れ、集積所に出してしまう。
そんな破片が混じっているだけでゴミ収集員のケガにつながりかねないからと、たとえ混入していたのが皿1枚であっても、岳はゴミを出した人たちに辛抱強く実情を説明する。
「皿1枚だけならいいや、としておいたら、2枚、3枚と増えていくじゃないですか」という岳の言葉が重い。
それだけ一所懸命働いていても、というより、人目につくほど働いているからか、ときに自分よりも若い学生やサラリーマンに蔑みの言葉を投げつけられることも珍しくない。
そうした職業蔑視の実態を、岳と部下たちは表情を変えずに淡々と語る。
そうした中、岳の務めるゴミ収集会社の顧客である総合病院で、職員5人、入院患者14人が新型コロナウイルスに感染し、合計19人のクラスターが発生した。
部下に任せるわけにもいかず、家族には内緒で病院に向かった岳は、必死の思いでゴミの収集を終えると、最後に自分が着ていたビニルの防護服を脱いでゴミと一緒に回収車に突っ込む。
岳はかつて、手のつけようのない悪ガキだったという。
ケンカ、万引き、窃盗、原チャリのかっぱらいなど数々の非行を重ね、補導されたり警察の厄介になったりしたことも多かったようで、「過去はみんななくしてしまいたい」「ゴミクズみたいな人生だった」と振り返る。
23歳でゴミ収集会社を就職先に選んだのは「ただなんとなく」で、ただ単純に「生活していかなきゃいけないから」だった。
そういう仕事を10年以上続けてきた岳はいま、クラスターが発生した病院へ自ら向かい、割れた皿の破片ひとつについて住民を説得するような人間になっている。
そこには特別、ドラマチックな出来事や衝撃的な事件があったわけではない。
ただ、そういう人間になるように「ゴミが教えてくれたんですよ」という岳の言葉が胸に沁みる。
オススメ度A。