『30年後の同窓会』(WOWOW)🤗

Last Flag Flying
124分 2017年 アメリカ=アマゾン・スタジオ/ライオンズゲート
日本公開:2018年 ショウゲート

主人公である6歳の子役が18歳の若者になるまで、12年間に渡って撮影を続けた『6才のボクが、大人になるまで』(2014年)で知られるリチャード・リンクレイターが監督・脚本・製作の1人3役を務めた人間ドラマの佳作。
原作はアメリカン・ニューシネマの傑作『さらば冬のかもめ』(1973年)の原作小説を書いたダリル・ポニクサンが2005年に発表した同題小説である。

小説は『さらば…』の続編だが、本作では設定や登場人物を大幅に変更し、独立した作品として映画化している。
年老いた元海兵隊員3人が30年ぶりに再会し、車とアムトラックで旅を続けるというストーリーで、現役の海兵隊員3人のロードムービーだった『さらば…』と同工異曲の内容であり、原作のテーマと精神は十分に反映されているようだ。

主人公の元海兵隊衛生兵ラリー・シェパード、通称ドク(スティーヴ・カレル)は、ポーツマスの海軍刑務所から出所したばかり。
ベトナム戦争の戦友だったバー経営者サル・ニーロン(ブライアン・クランストン)、牧師リチャード・ミューラー(ローレンス・フィッシュバーン)を訪ね、30年ぶりの再会を果たす。

ドクは旧友ふたりに、自分と同じように海軍に入隊した息子ラリー・ジュニアがイラク戦争で戦死したことを告白。
遺体を引き取るため、デラウェア州のドーバー空軍基地まで同行してもらいたいと頼む。

サルは当初、自分のバーに客としてやってきたドクに気がつかず、リチャードも一度は同行を断りながら妻ルース(ディアーナ・リード=フォスター)に説得されて渋々承諾。
という経緯からもわかるように、30年間音信不通だった彼らは、かつての戦友ではあっても、決して親友同士ではない。

ドクの息子はバグダッドでテロリストに待ち伏せされ、銃の弾を打ち尽くし、英雄として死んだと、米軍は説明していた。
ところが、ドーバーに着いてみると、息子の親友だったというチャーリー・ワシントン上等兵(J・クイントン・ジョンソン)が、息子は自分の代わりにコーラを買いに行き、後ろから頭を撃ち抜かれたという真相を告白。

海軍にウソをつかれたことに激怒し、顔を破壊された息子と対面したドクは、慣例としてテキサス州のアーリントン墓地で軍葬にする、というウィリッツ大佐(ユル・ヴァスケス)の申し出を拒否。
ニューハンプシャー州の自宅まで運び、軍葬のように軍服ではなく、高校の卒業式で着ていたスーツを着せて埋葬する、と主張する。

ウィリッツはあくまでも紳士的に、息子の遺体をニューハンプシャーへ無料で空輸すると提案するが、怒り心頭のドクはこれも断った。
こうしてアムトラックで遺体を運んでいた道中、ベトナムでの思い出話に耽っていた3人は、彼らがいままで忘れたことにしていた戦友のことを思い出す。

その戦友ジミー・ハイタワーもまたベトナムで英雄として戦死したことになっていたが、実際には負傷したとき、ジャンキーだったサル、リチャードがモルヒネを使い切っていたため、苦しみにのたうち回りながら死んだのだった。
しかも、衛生兵だったドクはモルヒネの管理責任を問われて除隊となり、3年の懲役刑を科されていた。

そういう深いトラウマとなった過去があったからこそ、彼らは30年も互いに連絡を取らず、リチャードはドクに同行したがらなかったのだ。
しかし、30年経ったいま、おれたちはジミーの家族に真相を打ち明け、きちんと謝罪するべきではないか。

そう意見が一致した3人は、旅の途中で年老いた母親(シシリー・タイソン)を訪ねるのだが、息子は英雄として死んだと信じている彼女を前にすると何も言えなくなってしまう。
非常に痛切な場面だが、リンクレイターはあえて劇的な演出をせず、淡々と3人と母親の邂逅を描いている。

ニューハンプシャーに到着すると、2年間の軍隊生活で逞しくなっていた息子には、卒業式で着ていたスーツのサイズが合わなくなっていたことがわかる。
ハイタワーの母親に会ってから心境が変化したらしいドクは、それならとウィリッツ大佐の提案通り、軍服を着せて埋葬することに同意した。

葬儀のあと、ワシントンがラリーの息子から託されていた父親宛の手紙をラリーに手渡す。
イラクで戦死した場合に備えて、彼らは互いに家族に充てた手紙を交換し合っていたのだ。

ラリーが息子の手紙を広げると、そこには「僕に軍服を着せて、お母さんの隣に埋葬してください」と書いてあった。
結局、ラリーの判断は正しかった、図らずも息子の希望を叶えることができたのだということを明かして、映画は終わる。

これでよかったのか、これでは軍隊の欺瞞を肯定したも同然ではないか、ラリーはあくまで息子を殺された怒りを貫くべきだったのではないかと、割り切れない印象はどうしても残る。
その半面、いや、やはりこういうふうに収めることが正解だったのだろう、もし現実に同様の事態に直面したら、ほとんどの大人の男がそうするはずだ、という思いが沸くのもまた確かである。

なお、以下は蛇足ながら、この邦題はいただけなかった。
いかにも心温まるホームドラマのようで、作品内容を誤解させ、ビターで複雑な味わいを損なっているように思う。

オススメ度A。

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A=ぜひ!🤗 B=よかったら😉 C=気になったら🤨  D=ヒマだったら😑
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スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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