1945年4月30日、ベルリン陥落の際に拳銃自殺したヒトラーが、実は秘かに南米に逃れて第3帝国復興を計画している、というのは長らく信じられてきた20世紀の都市伝説である。
この伝説を素にした映画も『ブラジルから来た少年』(1978年)のような本格サスペンスから、SF仕立ての『アイアン・クロス』(2012年)、モキュメンタリーの手法を採り入れたコメディー『『帰ってきたヒトラー』(2015年)と、なかなかの傑作が多い。
なぜこんな都市伝説がつくられたかというと、ヒトラーと愛人エヴァ・ブラウンが自殺したとされる総統官邸の焼け跡から、ふたりの死体が見つからなかったからだ。
このドキュメンタリーは冒頭にゲーリング、ヒムラー、ゲッペルスらナチス幹部の生前の動画と死体の写真を並べて見せ、ヒトラーの死体はどこにあるのか、彼は生きていてどこかへ逃げたのかと、いささか悪趣味ながらもインパクトのあるツカミで始まる。
このとき、最初に総統官邸に踏み込んだのがソ連軍で、ヒトラーの焼け残った頭蓋骨、歯、顎の骨などを収集し、長らくモスクワの公文書館に保管。
ソ連が崩壊してロシアに体制が変わったのちの2000年4月、それらを初めて公開したところ、世界中で真贋論争が巻き起こった。
そうした中、フランスの法医学者フィリップ・シャルリエが真贋を判断しようと決断、本作の取材スタッフを率いてモスクワに乗り込む。
取材許可を得るまでに2年を要し、顕微鏡で頭蓋骨や歯を調べている間もロシア側の管理担当者が厳しい監視の目を光らせる。
科学的検証を主眼としたドキュメンタリーなので、驚くような結末は待っていないが、見応えは十分。
ヒトラーに興味のある歴史好きには見逃せない一篇と言っていい。
オススメ度B。