神出鬼没のストリート・アーティスト、バンクシーとはいったい何者なのか?
本当に正体不明なのか、それとも美術界や一部マスコミの間では〝公然の秘密〟となっていて、バンクシーの商品価値を高めるためにあえて謎の画家ということにしてあるのか。
バンクシーの正体に迫る、とタイトルに謳った本作は、あの有名な2018年、サザビーズのオークションで起こった事件から始まる。
『風船と少女』が86万ポンド(約1億2880万円)で落札された次の瞬間、アラームの音ともに額縁から『風船と少女』が下がり、半分細断されてしまったのだ。
誰が撮影したかは明らかにされないが、本作はこの冒頭で、帽子、サングラス、白いものが混じった髭の男が、ブリーフケースに入った何らかの装置を操作している画像を公開。
この人物が細断事件の仕掛人のひとりで、バンクシー本人か、バンクシーの仲間であるかのような印象を与える。
1990年代後半、路上や建物に作品を描く風刺画家として登場したバンクシーはしばしば、正体を隠すことで世間の興味を惹きつけ、自分の作品を高く売ろうとしているのだと指摘されている。
要は巧妙なマーケティング戦略であり、商売上手なのだ、と。
1997〜2008年にバンクシーの代理人を務めたスティーヴ・ラザリスは、そうした批判を承知の上で、「自己PR以前の自己防衛策」だと主張している。
ビルや公共施設の壁に絵を描く行為は器物損壊罪に相当し、法律的に見れば明らかな犯罪行為だからだ。
実際、バンクシーがこれまでに世界各国で行ってきた数々の犯行を累積すれば、過料や量刑は相当なものになるだろう。
それにしても、ニューヨークに進出してからはしばしば監視カメラにも捉えられているようで、その動画も紹介されている。
後半はお約束の正体探しになるが、当然のことながら、バンクシーが何者なのかはわからないままに終わる。
しかし、バンクシーは2011年に『イグジッド・スルー・ザ・ギフトショップ』という自分に関するドキュメンタリーを監督しており、当然のことながらスタッフや制作会社のメンバーはバンクシー本人に会っているはず。
それなのに正体不明ということになっているのは、バンクシーがすでに一アーティストを超え、マスコミを通じて様々な人々や分野に利益をもたらす〝匿名移動アート商社〟と化しているからのようにも思える。
こういうドキュメンタリーもその商品価値を守り、高める一環として作られているのでは、と言ってはイチャモンになるかな。
オススメ度B。