NHKドキュメンタリーセレクション『日本一長く服役した男』(NHK総合)🤔

45分 2021年 放送:2月21日(日)午後5時〜5時45分 制作:NHK熊本

2019年、熊本刑務所に服役していた無期懲役囚が出所し、引き取り手がないことから、高齢者施設に預けられることになった。
ナレーター・津田健次郎に「男」と表現されるこの人物は、21歳から83歳になるまで61年間、「日本一長く服役」していたという。

あまりに長かった刑務所暮らしのためか、男は認知症の症状を呈しており、刑務官にかけられた言葉にもまともに反応できない。
彼の状態は施設に移ってからも変わらず、自分がどこにいるのかすらわかっていないように見える。

この男が無期懲役判決を受けた罪は強盗殺人。
21歳だった1957年、共犯者の少年とともに精肉店店主の妻を襲い、刃物で刺殺し、売上金を奪ったという。

男が刑務所に入所した当時は、たとえ無期懲役刑であっても、改悛の情が認められ、出所後も受け入れる親族や関係者がいれば、20年程度で仮釈放されるケースが少なくなかった。
男の弁護士もこれまでに5度の仮釈放申請を行っているが、男は家族に義絶されていたらしく、受け入れ先がないことからいずれも棄却。

その上、1995年の地下鉄サリン事件以降、刑法の厳罰化が進み、2004年の刑法改正で有期刑の上限が30年に引き上げられた。
こうして、男は31年間、公式書類に残されている限りでは「日本一長く」服役することになったのだ。

83歳まで檻の中に閉じ込められ、精神を病んだ男からは、どこからどう見ても「改悛の情」はうかがえない。
いや、それ以前に、自分が犯した罪を記憶しているかどうかすら怪しいほどの状態になっている。

NHKのスタッフは被害者の遺族にも取材を試みており、詳細な感想が記された手紙の内容が紹介される。
しかし、男は果たして、自分の犯した罪をどう考え、どのように悔いていたのか、明確な言葉はついに一言も発しないまま、施設に移った1年後にひっそりと、と言うより、あっけなく亡くなってしまった。

興味深い題材ではあると思うし、それなりの見応えもある。
ただ、「だから何なんだ」「だからどうすればよかったと言うんだ」という反問が浮かんで、どうにも嚥下し難い印象が残った。

オススメ度B。

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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