『飼う人』柳美里😁🤔😌

発行:文藝春秋 文春文庫 第1刷:2021年1月10日 840円=税別

動物やペットが重要な小道具となっている小説は昔から数々あるが、僕が本書を読んで思い出したのは、映画『ロッキー』(1976年)でシルヴェスター・スタローンが飼っていた2匹の亀だった。
カフ、リンクと名付けた亀に語りかける冒頭の描写だけで、借金の取り立て屋を生業としていたロッキーの本当の人間性が伝わってくる。

この亀の餌を買うために通っていたペットショップの店員が、ロッキーが恋心を抱き、のちに妻となるエイドリアン(タリア・シャイア)。
スタローンは実生活でも2匹の亀を飼っていて、新たに『クリード』シリーズが始まった2015年には、インスタグラムでその画像を公開している。

言葉はしにくいが、犬や猫のような親しみやすいペット用の動物ではなく、亀のような爬虫類だからこそ代弁し得る側面が、人間にはあるのではないか。
そういう意味で、本書に出てくる珍しい生物の数々と、そういう生物を飼う姿勢の人々との組み合わせは非常に興味深い。

安定した家庭生活を求め、年下の市役所役員と結婚した主婦は、10年たっても子供ができず、ベランダで偶然見つけたイボタガという蛾の幼虫の育成にハマる。
バブル期に就職した会社をリストラされた若者は、コンビニでアルバイトを続けながら、そのバブル期の愛玩動物だったアホロートルを飼っている。

シングルマザーに育てられている中学生の少年は、母親の離婚に伴って転居した福島の被災地で、金魚やアロワナを飼っては死なせてしまう。
パトロンの男に捨てられた母親に、暗に心中を迫られているらしい生活の中で、少年が心の拠り所にしているのが、イエアメガエルの飼育だった。

個人的には、一番長いこのイエアメガエルの一篇が一番好きだ。
最後に登場する蝶、ツマグロヒョウモンを飼っているのは、巻頭のイボタガの幼虫を飼っていた主婦の夫で、両作品が対を成して本書は終了する。

なお、この本を読んだのは、プロ野球のキャンプ取材で宮崎、沖縄へ出張していた最中。
昨年の同じころには、ラテン・アメリカ文学の大長編作品、フリオ・コルタサルの『石蹴り遊び』を出張先に持参したが、毎日仕事に追われるキャンプ期間中は、こういう心に刺さる短編集のほうがお誂え向きかもしれない、と思いました。

😁😭🤔🤓

2021読書目録
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3『JR上野駅公園口』(2014年/河出書房新社)柳美里😁😭🤔🤓
2『芸人人語』太田光(2020年/朝日新聞出版)😁🤣🤔🤓
1『銃・病原菌・鉄 一万三〇〇〇年にわたる人類史の謎』ジャレド・ダイアモンド著、倉骨彰訳(2000年/草思社)😁😳🤔🤓

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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