開巻、北極に不時着し、ひたすら救助を待っている孤独なパイロット、オヴォアガード(マッツ・ミケルセン)の姿が丹念に描かれる。
雪原に上空から見えるようSOSのメッセージを描き、電波を飛ばせる場所で救難信号を送り、氷に空けた穴の仕掛けでホッキョクイワナを釣り、半壊した機体の中で睡眠を摂る。
この序盤の描写は静かな迫力に満ちており、ミケルセンの演技力もあって、自宅のテレビで観ていても惹きつけられる。
こういうサバイバル物の常套手段として、ある程度進んだら主人公の回想シーンに切り替わり、幸せな家庭や遭難した経緯が描かれるものだが、そんなセンチメンタルな手法を完全に排除しているところが、斬新と言えば斬新。
そこへヘリコプターがやってきて、オヴォアガードが助かったと大喜びしたのも束の間、折からの強風によってヘリは墜落。
重傷を負った若い女性(マリア・テルマ・サルマドッティ)を引き摺り出したオヴォアガードは、このまま救助を待っていては彼女を救えないからと、シュラフにくるんだ彼女を橇に乗せ、遠く離れた観測所に向かう。
本作は実際に極寒のロケ地で撮影されたそうで、過酷な状況でひとり芝居をやりきったミケルソンの熱演も評価に値する。
しかし、彼の演じる主人公がこういう極限状況に置かれた原因、過去に歩んできたバックボーンは、示唆すらされていない。
しかも、この遭難事故が起こった年代や時代背景の説明が皆無。
主人公がGPSやスマホを持っておらず、紙の地図を頼りに生還を図る、というのも、冷静に観れば今時の映画としては不自然である。
監督のジョー・ペナはYouTuber出身で、本作が劇場用映画の監督デビュー作。
演出力はなかなかのものだけに、ストーリーの前提となる基本的ポイントをきっちり押さえていないのが惜しまれる。
オススメ度C。
ブルーレイ&DVDレンタルお勧め度2021リスト
A=ぜひ!🤗 B=よかったら😉 C=気になったら🤨 D=ヒマだ ったら😑
※再見、及び旧サイトからの再録
17『トンネル 9000メートルの闘い』(2019年/諾)C
16『ザ・ワーズ 盗まれた人生』(2012年/米)A※
15『9人の翻訳家 囚われたベストセラー』(2019年/仏、比)A
14『ハウス・オブ・カード 野望の階段 シーズン6』(2018年/米)C
13『大時計』(1948年/米)B
12『汚名』(1946年/米)B
11『マザーレス・ブルックリン』(2019年/米)B
10『エジソンズ・ゲーム』(2017年/米)C
9『ジョン・ウィック:パラベラム』(2019年/米)C
8『ジョン・ウィック:チャプター2』(2017年/米)B
7『ジョン・ウィック』(2014年/米)C
6『容疑者、ホアキン・フェニックス』(2010年/米)C
5『宇宙戦争』(2005年/米)B
4『宇宙戦争』(1953年/米)B
3『宇宙戦争』(2019年/英)B
2『AI崩壊』(2020年/ワーナー・ブラザース)B
1『男はつらいよ お帰り 寅さん』(2019年/松竹)C