リメイク版の『追いつめられて』(1987年)は劇場公開時に観ているが、ケヴィン・コスナーとショーン・ヤングが序盤で大胆なカーセックスを演じていた場面以外、ほとんど覚えていない。
今回、元ネタとなった本作を観て、上司が愛人を殺し、その罪を部下になすりつけようとする、という粗筋だけはどうにか思い出した。
サスペンス映画としては、72年も前にもかかわらず、オリジナル版である本作のほうが面白い。
これはケネス・フィアリングという作家が書いた原作小説の舞台設定の巧みさによる。
タイトルロールの大時計は、ニューヨークにあるジャナス・パブリケーションズ(出版社)の自社ビルのフロアにそびえ立つ巨大な時計塔のこと。
この塔にぐるりと配置された掛時計を見れば、印刷所のあるサンフランシスコをはじめ、43の支社が置かれた世界各地の時間が一目でわかるようになっている、というアナログなツカミがいかにも1940年代の映画らしい。
このジャナス社が出版している総合雑誌の発行部数はなんと3300万部!
主人公ジョージ・ストロード(レイ・ミランド)がエレベーターに乗ると、編集部のフロアが各階ごとに分かれていて、それぞれ担当分野ごとにスポーツウェイ、エア(航空)ウェイ、アート(芸術)ウェイ、スタイル(ファッション)ウェイ、ニュース(報道)ウェイ、クライム(犯罪)ウェイと名付けられている、というオープニングの趣向がなかなか楽しい。
しかも、エレベーターのドアが開くたびに、スポーツウェイからは魚の剥製、エアウェイからはヘリコプターの模型を抱えた社員が乗ってきたり、スタイルウェイのフロアではドレスを着たモデルがポーズを取っていたり。
いちいち芸が細かいというか、手が込んでいるというか、ここまでだけでも当時としてはかなりの製作費が掛かったのではないか。
クライマックスでは、アール・ジャナス(チャールズ・ロートン)に愛人殺しの濡れ衣を着せられたジョージが、このビルの中を逃げ回る。
これまた1940年代の映画らしく、警察が把握している容疑者情報は目撃者の証言による人相風体のみで、現代のようにスマホで個人情報が流されているわけではないため、ジョージが逆襲に転じる時間的余裕が生まれる、という設定にも無理がない。
欠点を挙げるとすれば、ジョージと妻ジョジェット(モーリン・オサリヴァン)が旅先で揉めるくだりが少々退屈。
どうせなら最初から最後まで舞台をジャナス社に限定したほうがぐっと緊迫感が増しただろう。
オススメ度B。
ブルーレイ&DVDレンタルお勧め度2021リスト
A=ぜひ!🤗 B=よかったら😉 C=気になったら🤨 D=ヒマだ ったら😑
※再見、及び旧サイトからの再録
12『汚名』(1946年/米)B
11『マザーレス・ブルックリン』(2019年/米)B
10『エジソンズ・ゲーム』(2017年/米)C
9『ジョン・ウィック:パラベラム』(2019年/米)C
8『ジョン・ウィック:チャプター2』(2017年/米)B
7『ジョン・ウィック』(2014年/米)C
6『容疑者、ホアキン・フェニックス』(2010年/米)C
5『宇宙戦争』(2005年/米)B
4『宇宙戦争』(1953年/米)B
3『宇宙戦争』(2019年/英)B
2『AI崩壊』(2020年/ワーナー・ブラザース)B
1『男はつらいよ お帰り 寅さん』(2019年/松竹)C