演技派として知られるスター俳優エドワード・ノートンが監督・脚本・製作・主演の1人4役を務めたハードボイルド・ミステリ。
ボスを殺された私立探偵事務所の調査員が、隠された真相を突き止めようと、傷だらけになりながらも孤軍奮闘する、というオーソードクスな探偵映画である。
面白いのは、ノートン演じる主人公ライオネル・エスログのキャラクター。
トゥレット症候群という重症のチック症を患っており、仕事中も会話中も症状が頻出して、事務所の仲間に「フリークス」と渾名されている半面、記憶力のよさは抜群で、一度聴いたことは絶対に忘れない。
しかも、実は頭も切れることから、ボスのフランク・ミナ(ブルース・ウィリス)の信頼度は事務所で一番。
ライオネルをはじめとする4人の調査員は全員孤児で、フランクに拾われて仕事を手伝うようになり、今日に至っている、という背景が観ているうちにわかってくる。
開巻早々、フランクはアパートの一室で依頼人と交渉中、ライオネルに公衆電話から電話をかけるよう指示し、受話器を通して依頼人との会話の内容を聴かせる。
ここで、ライオネルの耳から頭に入ったフランクや依頼人の言葉の数々がのちに重要な意味を持ってくる、という布石の打ち方が探偵映画としてまずうまい。
交渉が決裂し、依頼人の車に拉致されたフランクは、ライオネルが車で追跡していた最中、腹を撃たれてあっけなく死んでしまう。
しかし、今際の際に漏らした言葉が、ニューヨーク市政を牛耳る区監督官モーゼズ・ランドルフ(アレック・ボールドウィン)の存在を示唆していた。
モーゼズは大がかりな都市再開発計画のリーダーで、黒人の多い住宅街を「スラム」呼ばわりして次々に取り壊しを断行。
その跡に作った公園は255カ所に上る一方、家をなくした黒人は20万人にも及び、モーゼズ退陣を迫る反対集会では彼の人形が燃やされるほど、憎悪の対象になっていた。
ライオネルは新聞記者だと偽り、集会に参加しているローラ(ググ・バサ=ロー)、ポール(ウィレム・デフォー)に接近、モーゼズの裏の顔にまつわる情報を集め、ボスのフランクが握っていたネタに迫っていく。
ノートンの演出は決して先を急がず、ひとつひとつ丁寧に細かい描写を積み上げているところが、いかにも古式床しいハードボイルド・ミステリらしい。
1957年、まだドジャースが西海岸に移転する前のニューヨークを再現した美術やロケ地もノスタルジックな雰囲気たっぷり。
フランクのオフィス、モーゼズが水泳を楽しむ屋内プール、重要なポイントとなるペンシルベニア駅、ローズの父親が経営するジャズ・バー〈ザ・キング・ルースター〉などなど、年寄りの映画ファンとしてはセットを観ているだけでうれしくなってくる。
ジョナサン・レセムの同題原作小説の時代設定は出版された年と同じ1999年だったが、ノートンが「登場人物たちが1950年代のハードボイルド小説を思わせるものだったから」という理由でこの時代に変更したという。
結果としてはこれが大正解で、やはり〝復刻探偵映画〟だったジャック・ニコルソン主演、ロマン・ポランスキー監督の『チャイナタウン』(1974年)に優るとも劣らない作品に仕上がった。
ただし、2時間半はちょっと長い。
もう20分ぐらい削り、大胆な省略を施せば、もっとピリッとした探偵映画になったはず、と個人的には思う。
オススメ度B。
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A=ぜひ!🤗 B=よかったら😉 C=気になったら🤨 D=ヒマだ ったら😑
※再見、及び旧サイトからの再録
10『エジソンズ・ゲーム』(2017年/米)C
9『ジョン・ウィック:パラベラム』(2019年/米)C
8『ジョン・ウィック:チャプター2』(2017年/米)B
7『ジョン・ウィック』(2014年/米)C
6『容疑者、ホアキン・フェニックス』(2010年/米)C
5『宇宙戦争』(2005年/米)B
4『宇宙戦争』(1953年/米)B
3『宇宙戦争』(2019年/英)B
2『AI崩壊』(2020年/ワーナー・ブラザース)B
1『男はつらいよ お帰り 寅さん』(2019年/松竹)C