昨年、スポーツライターとして改めて痛感させられたことのひとつに、技術論を文章で表現することの難しさがある。
それは、ダルビッシュ有の特集が組まれたSports Graphic Number 1014(2020年11月19日号)で、ダルビッシュに教わったことについて前田健太にインタビューしたときのことだった。
前田の言葉は常に明快で、こちらがあえてぶつけた(あえてではない場合も多いが)初歩的な質問にも、親切かつ丁寧に答えてくれた。
しかし、彼の話が具体的になればなるほど、素人である一般のファン、ひいてはライターの僕にも理解しにくく、わかりやすい言葉に置き換えるのが困難になるのである。
その点、こういうドキュメンタリー番組の場合は、ダルビッシュの言葉を映像で再現でき、僕も含めた素人には言葉よりもはるかにわかりやすい。
ダルビッシュが同じ腕の振りでカットボールとスパイクスライダーを投げ分けており、ピッチトンネルを通過した先で曲がり方が大きく変わる現象など、実際の映像をふたつ重ねたり並べたりして見せてくれる。
ちなみに、ピッチトンネルとは、18.44mのうち、バッターが投球を認識できる7m手前までのこと。
ダルビッシュはこの投球の通り道を抜けた瞬間、小さく曲がってストライクゾーンに入るカット、大きくボールゾーンに逸れるスライダーを投げ分け、バッターを打ち取っているのである。
「打席まで続いているガラスの壁に沿って投げる」というダルビッシュ独特の表現も、本作のように実際の映像にCGのガラスを重ねて見せられると大変わかりやすい。
また、あえて初心者向けにツーシーム、フォーシーム、ジャイロ回転をCG動画で再現しているくだりも精巧にできており、野球に関する知識に乏しい人、野球ファンでない人も面白く観られるだろう。
様々な変化球を探究し続けるダルビッシュは、自らの行為を「芸術」であり、新球を編み出す研究や練習など、「いろんな過程も含めてアートだと思う」と語っている。
そういう〝究極の一球〟でバッターと勝負するときは、「バッターは見ていないないですね、何も見ていない」そうだ。
いまのダルビッシュ は、かつて打撃を極めたイチローと同じ、達人にしか到達し得ない領域に入っている。
ここまできたら、彼らの言葉は、われわれのようなライターが余計な注釈など加えず、ただ聞いたままに書き、伝えるしかない。
オススメ度A。