原爆投下から70年目の2014年、NHKが制作した連続ドキュメンタリー『シリーズ被爆70年 ヒロシマ 復興を支えた市民たち』の第1回として放送された作品。
2年後の2016年には、広島カープの25年ぶりのリーグ優勝に合わせてDVD版も発売された。
カープの初代監督・石本秀一を主人公にしたドキュメンタリーならこれまでにも制作されているが、本作はイッセー尾形が石本を演じた再現ドラマを主体としている構成が異色。
また、その再現ドラマに実在の人物のインタビューを挿入する手法が非常に斬新で、観る者を引き込まずにはおかない。
最も大きな特色として、本作には石本のほかに、カープの草創期に関わった無名の選手や市井の人物が登場する。
そのうちのひとりが、有限会社・迫谷建具を経営していた石本の友人の息子、当時9歳だった迫谷富三。
昭和26(1951)年、迫谷の作業場にやってきた石本は、経営難から脱却できないカープが大洋に吸収合併されるかもしれない、と告白。
それを聞いていた富三は、5円玉ばかりで200円貯めていた貯金箱を金槌でたたき割り、「これをカープのために使うてください!」と石本に渡そうとする。
富三は将来カープの選手になる夢を抱いており、革のグローブを買うために貯金を続けていた。
しかし、カープがなくなっては、グローブを買っても意味がない、だから自分の貯金をカープ再建に役立ててほしい、というのだ。
いかにも人情話的なエピソードなので、このくだりには創作も入っているのかもしれない、と思ったら、ここでカットが変わり、迫谷建具を継いだ現在(本作放送時)の富三さん本人が出てきたから驚いた。
なかなか意表を突いた演出で、富三さんが持参した当時の会社の看板など、カープとは直接関係のない物が、かえって市民とのつながりの歴史を感じさせる。
本作にはこのほかにも、カープ創立の昭和25(1950)年に皆実高校から入団した捕手・長谷部稔、カープが合宿所代わりに居候していた旅館・御幸荘の女将・砂田時枝の娘・陽子さんが登場。
とくに当時の苦労話を笑いながら打ち明ける陽子さんの語り口に、現在の地元のカープファンにも受け継がれた広島独特の愛情と距離感を感じた。
石本役のイッセー尾形も好演で、広島弁のアクセントやイントネーションが上手く、僕が聴いていてもまったく違和感を感じさせない(彼は福岡出身)。
彼が出演する部分を書き割りの置かれたスタジオと、本格的再現ドラマに分けた構成も光る。
最後に映し出されるのは、カープが初優勝した昭和50(1975)年10月15日、脳卒中の後遺症を抱えていた石本さんが、自宅のテレビの前で感涙にむせぶ姿。
中学生のころから何度も何度も繰り返し観たけれど、やはり感動的でした。
オススメ度A。