20代の恋愛なんて、「お付き合いしてください」と言って始まるものではなく、こういうふうにして、何となく続いていくものではないだろうか。
…という主人公・山田テルコ(岸井ゆきの)の独白にあるように、男女問わず、若いころにこういう交際をした経験を持つ人は少なくないに違いない。
ちょっと前に流行った言葉を使えば、「友だち以上、恋人未満」。
しかし、本作の場合は、テルコが田中守(成田凌)を好きになり、男女の関係を持つと、一方的にのめり込み、どこまでも、いつまでも追いかけていって、ついには守本人と同化したいと夢想するようになる、というところが独特である。
出会いはお互い、「友だちの友だち」程度の知り合いの結婚披露宴に形だけ出席した夜の二次会。
守が都合のいいときにだけテルコを呼び出してはデートを重ねる一方、いずれは守と結婚できるものと思い込んだテルコは、勤めていた会社を辞め、洗濯や掃除など、甲斐甲斐しく彼の世話を焼くようになる。
しかし、そんなテルコの態度に息苦しさを感じた守は、突然杓子定規な言葉遣いに変わって、テルコを部屋から追い出してしまう。
テルコが秘かに買っておいたふたり用の土鍋を抱えて、アパートの前に立ち尽くしたまま、守に置き去りにされる場面が切ない。
その後、一方的に連絡を断ってしまう守の態度に、「やりがちだよな」、あるいは「若いころはおれもやったな」とうなずいてしまう男も多いはずだ。
テルコは一度も使えなかった土鍋を燃えないゴミの日に出し、守のことを忘れて再就職しようとするが、そこへ1カ月ぶりに守から電話がかかってくる。
ところが、テルコが喜び勇んで指定された店に行くと、守の隣には新しい恋人・塚越すみれ(江口のりこ)がいた。
すみれは守からテルコの話を聞いて興味を持ち、会ってみたいと守に持ちかけ、守はすみれのご機嫌を取るためにテルコを呼び出したのだ。
すみれは守よりも年上の35歳、大酒飲みでヘビースモーカー、肌もガサガサでとても魅力的とは言えない。
しかし、なぜかテルコとは波長が合い、自らテルコをパーティーに誘って、一緒に出かけた河口湖畔で本音をぶつけ合ったりする。
テルコ、守、すみれの3人で飲んだある夜、すみれは「友だちともう一軒飲んで行くから」とひとりで立ち去ってしまった。
残された守はテルコの部屋に押しかけ、テルコを抱こうとするが、飲み過ぎて勃起せず、「俺はカッコ悪い男」だと懺悔のような独白を始める。
そんな守を微笑みながら見つめるテルコの表情が、可愛いようでいて、でも不気味なようでいて、しかし、じっと観ていると、やっぱり可愛らしい。
テルコは自分を「ストーカー」だと自覚しており、守もそんなテルコを嫌いになりきれない、というどっちつかずの関係に、終盤でまた新たな変化が起こる。
原作は角田光代の同題恋愛小説、監督は『アイネクライネナハトムジーク』(2019年)の今泉力哉で、これという起伏のないストーリーを、淡々としたタッチで描きながら、こちらの目を惹きつけて離さない。
テルコの土鍋やマグカップ、オープニングとエンディング間際の煮込みうどん、やはり序盤と終盤に出てくる象など、要所要所での小道具やアイコンの使い方も印象に残る。
もうひとつ面白かったのは、テルコとテルコの友人・坂本葉子(深川麻衣)と付き合っている仲原青(若葉竜也)が、大晦日に葉子の家でふたりきりになり、餃子をつまみながら愚痴り合うシーン。
「これってストーカー会議?」というテルコのセリフは、原作にあるのか映画版のオリジナルかわからないが、実にハマっていてクスリとさせられた。
主役の岸井、守役の成田、すみれ役の江口など、それぞれのキャラクターをしっかり捉えた俳優陣の好演も光る。
ただ、岸井と深川が口論する場面だけは、全体のトーンからして、ちょっと違うんじゃないかな、と感じましたが。
オススメ度A。
ブルーレイ&DVDレンタルお勧め度2020リスト
A=ぜひ!🤗 B=よかったら😉 C=気になったら😏 D=ヒマだ ったら😑
※再見、及び旧サイトからの再録
147『アイネクライネナハトムジーク』(2019年/ギャガ)B
146『アデル、ブルーは熱い色』(2013年/仏)A※
145『ハウス・オブ・カード 野望の階段 シーズン5』(2017年/米)B
144『ノースライト』(2020年/NHK)B
143『君の名は。』(2016年/東宝)A※
142『言の葉の庭』(2013年/コミックス・ウェーブ)B※
141『天気の子』(2019年/東宝)A
140『人間失格 太宰治と3人の女たち』(2019年/アスミック・エース)C
139『サニー/32』(2018年/日活)C
138『凶悪』(2013年/日活)B
137『ほえる犬は噛まない』(2000年/韓)C
136『暗黒の恐怖』(1950年/米)C※
135『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』(2015年/米)A※
134『フューリー』(2014年/米)C※
133『ホワイトタイガー ナチス極秘戦車・宿命の砲火』(2012年/露)B※
132『T-34 レジェンド・オブ・ウォー』(2019年/露)C
131『ゾンビ・ガール』(2015年/米)B※
130『狼男アメリカン』(1981年/米)B※
129『ウルフ』(1994年/米)B
128『パルプ・フィクション』(1994年/米)A
127『トゥルー・クライム』(1999年/米)C
126『ブラッド・ワーク』(2002年/米)B
125『ハウス・オブ・カード 野望の階段 シーズン4』(2016年/米)B
124『ザ・コミー・ルール 元FBI長官の告白』(2020年/米)B
123『ジェミニマン』(2019年/米)B
122『ガール・イン・ザ・ミラー』(2019年/加)B
121『ドッペルゲンガー』(2003年/アミューズピクチャーズ)B
120『屍人荘の殺人』(2019年/東宝)B
119『ドクター・スリープ』(2019年/米)B
118『ランス・アームストロング ツール・ド・フランス7冠の真実』(2013年/米)A※
117『疑惑のチャンピオン』(2015年/英、仏)B※
116『陽だまりのグラウンド』(2001年/米)B※
115『ホテル・ムンバイ』(2019年/豪、印、米)A
114『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』(2018年/松竹)B
113『閉鎖病棟−それぞれの朝−』(2019年/東映)C
112『真実』(2019年/仏、日)A
111『氷の微笑』(1992年/米)B
110『チャーリーズ・エンジェル』(2019年/米)C
109『FBI:特別捜査班 シーズン1 #22対決の時』(2019年/米)C
108『FBI:特別捜査班 シーズン1 #21隠された顔』(2019年/米)B
107『FBI:特別捜査班 シーズン1 #20エジプトの要人』(2019年/米)B
106『轢き逃げ 最高の最悪な日々』(2019年/東宝)B
105『蜜蜂と遠雷』(2019年/東宝)B
104『ワン・カップ・オブ・コーヒー 栄光のマウンド』(1991年/米)A
103『ドリーム・ゲーム 夢を追う男』(1991年/米)B※
102『スラッガーズ・ワイフ』(1985年/米)B
101『死霊のはらわた』(2013年/米)C※
100『死霊のはらわた』(1981年/米)A※
99『脱出』(1972年/米)A※
98『ラスト・ムービースター』(2018年/米)B
97『ハウス・オブ・カード 野望の階段 シーズン3』(2015年/米)A
96『FBI:特別捜査官 シーズン1 #19白い悪魔』(2019年/米)B
95『FBI:特別捜査官 シーズン1 #18ラクロイ捜査官』(2019年/米)C
94『FBI:特別捜査班 シーズン1 #17秘密のデート』(2019年/米)C
93『世界の涯ての鼓動』(2017年/独、仏、西、米)C
92『殺人鬼を飼う女』(2019年/KADOKAWA)D
91『軍旗はためく下に』(1972年/東宝)A※
90『イングリッシュ・ペイシェント』(1996年/米)B
89『ラスト、コーション』(2007年/台、香、米)A
88『サンセット大通り』(1950年/米)A※
87『深夜の告白』(1944年/米)A
86『救命艇』(1944年/米)B※
85『第3逃亡者』(1937年/英)B※
84『サボタージュ』(1936年/英)B※
83『三十九夜』(1935年/英)A※
82『ファミリー・プロット』(1976年/米)A※
81『引き裂かれたカーテン』(1966年/米)C
80『大いなる勇者』(1972年/米)A※
79『さらば愛しきアウトロー』(2018年/米)A
78『インターステラー』(2014年/米)A※
77『アド・アストラ』(2019年/米)B
76『FBI:特別捜査班 シーズン1 #16ラザロの誤算』(2019年/米)C
75『FBI:特別捜査班 シーズン1 #15ウォール街と爆弾』(2019年/米)C
74『FBI:特別捜査班 シーズン1 #14謎のランナー』(2019年/米)D
73『FBI:特別捜査班 シーズン1 #13失われた家族』(2019年/米)D
72『ハウス・オブ・カード 野望の階段 シーズン2』(2014年/米)A
71『記憶にございません!』(2019年/東宝)B
70『新聞記者』(2019年/スターサンズ、イオンエンターテイメント)B
69『復活の日』(1980年/東宝)B※
68『100万ドルのホームランボール 捕った!盗られた!訴えた!』(2004年/米)B
67『ロケットマン』(2019年/米)B
66『ゴールデン・リバー』(2018年/米、仏、羅、西)B
65『FBI:特別捜査班 シーズン1 #12憎しみの炎』(2019年/米)B
64『FBI:特別捜査班 シーズン1 #11親愛なる友へ』(2019年/米)B
63『FBI:特別捜査班 シーズン1 #10武器商人の信条』(2018年/米)A
62『FBI:特別捜査班 シーズン1 #9死の極秘リスト』(2018年/米)B
61『病院坂の首縊りの家』(1979年/東宝)C
60『女王蜂』(1978年/東宝)C
59『メタモルフォーゼ 変身』(2019年/韓)C
58『シュラシック・ワールド 炎の王国』(2018年/米)C
57『ハウス・オブ・カード 野望の階段 シーズン1』(2013年/米)A
56『FBI:特別捜査班 シーズン1 #8主権を有する者』(2018年/米)C
55『FBI:特別捜査班 シーズン1 #7盗っ人の仁義』(2018年/米)B
54『FBI:特別捜査班 シーズン1 #6消えた子供』(2018年/米)B
53『FBI:特別捜査班 シーズン1 #5アローポイントの殺人』(2018年/米)A
52『アメリカン・プリズナー』(2017年/米)D
51『夜の訪問者』(1970年/伊、仏)D
50『運命は踊る』(2017年/以、独、仏、瑞)B
49『サスペクト−薄氷の狂気−』(2018年/加)C
48『ザ・ボート』(2018年/馬)B
47『アルキメデスの大戦』(2019年/東宝)B
46『Diner ダイナー』(2019年/ワーナー・ブラザース)C
45『ファントム・スレッド』(2017年/米)A
44『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019年/米)B
43『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』(2019年/米)A
42『スパイダーマン:ホームカミング』(2017年/米)A
41『ビリーブ 未来への大逆転』(2018年/米)B
40『ワンダー 君は太陽』(2017年/米)A
39『下妻物語』(2004年/東宝)A
38『コンフィデンスマンJP ロマンス編』(2019年/東宝)C
37『FBI:特別捜査班 シーズン1 #2緑の鳥』(2018年/米)A
36『FBI:特別捜査班 シーズン1 #1ブロンクス爆破事件』(2018年/米)B
35『THE GUILTY ギルティ』(2018年/丁)A
34『ザ・ラウデスト・ボイス−アメリカを分断した男−』(2019年/米)A
33『X-MEN:アポカリプス』(2016年/米)B※
32『X-MEN:フューチャー&パスト』(2014年/米)C※
31『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』(2011年/米)B※
30『X-MEN:ダーク・フェニックス』(2019年/米)D
29『ヴァンパイア 最期の聖戦』(1999年/米)B
28『クリスタル殺人事件』(1980年/英)B
27『帰ってきたヒトラー』(2015年/独)A※
26『ヒトラー〜最期の12日間〜』(2004年/独、伊、墺)A※
25『ヒトラー暗殺、13分の誤算』(2015年/独)A
24『ハートブレイク・リッジ 勝利の戦場』(1986年/米)B
23『大脱出2』(2018年/中、米)D
22『大脱出』(2013年/米)B※
21『記者たち 衝撃と畏怖の真実』(2018年/米)B
20『ハンターキラー 潜航せよ』(2018年/米)C
19『グリーンブック』(2018年/米)A
18『ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男』(2017年/英、米)B
17『天才作家の妻 40年目の真実』(2018年/瑞、英、米)B
16『デッドラインU.S.A』(1954年/米)B
15『海にかかる霧』(2014年/韓)A※
14『スノーピアサー』(2013年/韓、米、仏)A※
13『前科者』(1939年/米)C
12『化石の森』(1936年/米)B
11『炎の人ゴッホ』(1956年/米)B※
10『チャンピオン』(1951年/米)B※
9『白熱』(1949年/米)A
8『犯罪王リコ』(1930年/米)B
7『ユリシーズ 』(1954年/伊)C
6『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』(2017年/泰)B
5『七つの会議』(2019年/東宝)A
4『キャプテン・マーベル』(2019年/米)B
3『奥さまは魔女』(2005年/米)C
2『フロントランナー』(2018年/米)B
1『運び屋』(2018年/米)A