平成27(2015)年、終戦70年の節目にNHK総合で放送された文化庁芸術祭参加作品で、5年後の今年、BS1で再放送された。
全戦没者20万人のうち、沖縄県民の死者は12万人に上ったと言われる沖縄戦の実相を、新たに発見された資料を駆使して検証している。
開巻、無造作に打ち捨てられた死体の動画に続いて、戦没者8万2074人の亡くなった日付と場所が記録された沖縄県所蔵の資料が示される。
本作はこのデータをCGによって可視化し、アメリカ軍上陸後に南部へ逃れようとした沖縄県民が、どこでどれだけ殺されたかを映し出して見せる。
続いて紹介されるのが、戦後に生き残った県民の肉声を収めた1000本のカセットテープ。
地下壕に隠れている最中、抱えていた赤ん坊が泣き出し、一緒にいた日本兵に「米兵に見つかる、黙らせろ」と迫られ、「おしめを口の中に突っ込んで窒息させた」と語る女性の証言が痛ましい。
アメリカ軍が上陸したこのとき、日本帝国陸軍の大本営は沖縄を本土防衛の最前線と位置づけ、現地の第32軍に持久戦を命じていた。
長勇(ちょう・いさむ)参謀長は沖縄県民に対し、「全県民が兵隊になることだ。一人十殺の闘魂を持って敵を撃砕するのだ」と呼びかけている、というより兵隊とともに死ぬことを半ば強要している。
54万人が上陸したアメリカ軍兵士に対して、日本軍の兵力は僅かに10万人。
そこで日本軍は「防衛召集」と称して沖縄県民を兵士として徴用し、どんどん人が死んで人数が逼迫してくると、ついには女性や14歳以上の男子まで戦争に駆り立てるようになっていく。
最終的に、こうして無理矢理兵士に仕立て上げられた沖縄県民は、実に約2万2000人。
「防衛召集」を定めた日本側の資料には、「軍官民共生共死ノ一体化」を目指すなどと、ほとんど気狂い沙汰としか思えないおぞましい言葉も記されている。
県民たちは沖縄戦の終盤、兵隊と同様に手榴弾などを抱え、米軍に突撃する「斬り込み」を強いられた。
これには最前線の若いアメリカ兵も衝撃を受けたようで、パニック状態に陥り、住民を兵隊だと勘違いして機関銃を乱射したという。
本作で発掘されたアメリカ側の資料のひとつ、第10軍のジェームズ・バーンズ曹長が記した「オキナワ・ダイアリー」の中には、「殺害した4700人のうち2000人が住民だった」という記述がある。
また、当時19歳だった海兵隊員のひとりはインタビューに応え、「前夜撃ち殺した人たちを、翌朝になって確認しに行ったら、住民ばかりだった」と涙ながらに述懐。
太平洋戦争で日本における唯一の地上戦となった沖縄戦は、これまでに何度もドキュメンタリー化、劇映画化されており、いまでは信じられないような酷い話や映像が多数残されている。
本作にもそうした映像や証言が取り上げられているが、何より優れているのは、新たに発掘した資料を現代人にも理解できるように〝見える化〟し、沖縄戦の規模と凄惨な実情をわかりやすく描いているところだろう。
戦争の実相を描くには、戦争の残酷さをそのまま提示すれば良いというものではなく、時代に合わせた手法を考えなければならない、ということを改めて考えさせられた。
いままでもそうしていたが、野球の1番打者を「斬り込み隊長」と表現することはもうやめよう、と改めて思った。
オススメ度A。