「世界は確実に僕たちのことを忘れている。
疎外感の中で、何千人ものシリア人が飢えて死にそうなんだ」
タイトルとなったこの言葉は、焼身自殺を遂げたシリア難民の息子がインタビューに応えて語ったものである。
息子である自分と孫たち、合わせて9人の家族を抱えていた父親は、出口の見えない貧困生活に「もう耐えられない」と言い残し、自ら身体に火を放った。
シリア内戦が激化した2011年以降、レバノンに逃れてきた難民たちは120万人から150万人に上ると言われる。
本作は今年1月から8カ月間、そんなシリア難民が集うレバノン・ベカー県の難民キャンプの過酷、というより苛烈な現状を追い続けたドキュメンタリーである。
オープニングとエンディングに登場する11歳の少女エルハーム(仮名)は、前年に一つ年上の兄を亡くした。
シリア難民の子供たちをさらっては臓器売買に利用しているグループに誘拐され、腎臓を切り取られて殺され、ゴミ捨て場に遺棄されたのだ。
違法な臓器売買はシリア難民にとって、日々の生活の糧を稼ぐための手段にもなっている。
日本円にして30万円で腎臓を売った男性、14万円で腎臓を買ってもらった老婆、片方の角膜を売った女性が次々に画面に登場し、カメラの前に傷口をさらす。
生活費を稼ぐために売春せざるを得ない女性も多く、そういう女性に対する肉親のDVや虐待も絶えない。
制作者のカメラはそうした女性のひとりに密着し、彼女に向かって「金を持ってこい」と怒鳴りつけ、手をあげる兄の姿も映し出す。
さらに、今年1月の制作開始から3カ月後、スタッフも予期しなかった新型コロナウイルスによる世界的規模のパンデミックが巻き起こる。
ただでさえ過酷な生活を強いられていたシリア難民たちは、文字通り死と隣り合わせで生きていかねばならなくなった。
8月まで取材を続けていたディレクター金本麻理子がレバノンを離れた直後、ベイルート港で大規模な爆発事故が発生、203人が死亡、6500人以上が負傷、約30万人が住居を失った。
金本がエルハームを心配して連絡を取ったとき、彼女はどうしていたか。
金本のタブレットの向こう側に現れ、より厳しくなりつつある現状を訴えるエルハームの姿が胸を打つ。
まだ11歳の彼女に幸せな未来はあるのだろうか、いまは誰にもわからないし、軽々しく口にするべきことでもない。
50分が2時間にも3時間にも感じられるドキュメンタリーである。
世界中がコロナ禍に覆われ、自分の生活の見通しすら立たないいま、知ったからと言ってどうなるのかと自分に反問しながら、それでもこういう現実があることだけは、一人でも多くの人間がきちんと認識すべきだと考えた。
オススメ度A。