『TENET テネット』(IMAX)😊

Tenet 151分 2020年 アメリカ、イギリス:ワーナー・ブラザース

クリストファー・ノーランがほとんど全編をIMAXカメラと大判フィルムで撮り上げたという最新作。
こういう映画はIMAXで鑑賞しなければ意味がないので、日本シリーズの試合がなかったきのう、TOHOシネマズ日比谷へ慌てて観にいってきました。

オープニング早々、武装テロリストたちがキエフの国立オペラ劇場を占拠すると、これを予期していた特殊警察も続けざまに突入。
催眠ガスによって観客全員が眠らされた中、何やら重要な兵器(のちにプルトニウム241とわかる)を奪い合い、激しい銃撃戦を繰り広げる。

ノーランと初めて組んだスウェーデン人の音楽家ルードヴィヒ・ヨーランソンの主題曲が響き渡り、有無を言わせず観客を作品世界へ引きずり込んでいく力技的ツカミはさすがノーランならでは。
いったんロシアのスパイに捕まって拷問を受けたCIAエージェントの名もなき男(ジョン・デヴィッド・ワシントン=デンゼル・ワシントンの長男)が意識を取り戻すと、そこはデンマークのバルト海に聳え立つ洋上風力発電所の巨大な風車(風力タービン)の中だった。

ここまで一気呵成に畳み掛けたあと、名もなき男に課せられた任務が説明されるくだりから、本作がノーラン作品で最も難解になった要因と言われる「時間の順行・逆行」という本題に入っていく。
CIAが狙っているのは未来から過去の現在にやってきた敵で、彼らは時間を逆行させる武器を使って第三次世界大戦を引き起こそうとしている、というのだ。

未来の敵がプルトニウム241を手に入れ、新たな原爆を爆発させたら、順行する時間と逆行する時間が衝突し、対消滅(ついしょうめつ)が起こって現在の地球は吹き飛ばされてしまう。
この恐るべき人類滅亡計画を阻止するため、名もなき男はニール(ロバート・パティンソン)という新たな相棒とともに、時間を逆行する弾丸を売り捌いているインドの武器商人プリヤ(ディンプル・カパディア)と接触。

プリヤによれば、一連の計画の背後に潜む黒幕は、時間を逆行させる装置を持つロシアの大物武器商人アンドレイ・セイター(ケネス・ブラナー)。
名もなき男はセイターの妻キャサリン(エリザベス・デビッキ)を口説き、セイターが自分の屋敷で催すパーティーに招待されることに成功する。

このあたりはノーランが幼少期のころに憧れていたというショーン・コネリー、ロジャー・ムーア時代のジェームズ・ボンド映画にそっくり。
ヘリポート付きの巨大なヨットを所有し、海辺で豪勢な暮らしをしながら、夫婦関係が破綻しているセイターとキャサリンは、『007 サンダーボール作戦』(1965年)で仲違いするエミリオ・ラルゴ(アドルフォ・チェリ)と情婦ドミノ(クローディーヌ・オージェ)を彷彿とさせる。

キャサリンから得た情報により、名もなき男とニールはオスロ国際空港のフリーポート(タックスヘイブン用の密輸品倉庫)に侵入。
10秒で人間を殺せる毒ガスの吹き出す防犯装置をかいくぐるため、ジャンボジェットの貨物機を倉庫に激突させる場面ではCGを一切使わず、ジャンボ機も踏み潰される車もすべて本物を使用しており、ヨーランソンの音楽とも相まって大変な迫力である。

ここで初めて時間を逆行する回転ドア(ターンスタイル)が登場し、それまでも細かく布石が打たれていた、順行する時間とはまったく逆の動きを見せる人間や武器が本格的に前面に出てくる。
名もなき男とニールに突然襲いかかった防毒マスクと戦闘服の男たちは、殴ろうとしながら後退し、拳銃を構えたら銃口に弾丸が戻っていく。

ストーリーが難解になり、展開が呑み込みにくくなるのはこのあたりからだが、ここで僕が思い出したのはアメリカのSF作家ロバート・A・ハインラインのタイムパラドックスもの『時の門』、『輪廻の蛇』(ともに1959年)。
ネタバレになるので書かないが、実は未来の自分が現在の自分を動かしていた、という場面が二重三重に設定され、エンディングでは二段階三段階と実に念入りなオチが重なり、ああ、なるほど、そういうことだったのかと、独特のカタルシスを伴った納得感を感じさせてくれる。

とはいえ、やっぱりわからなかった部分もたくさんあり、一度観ただけで全容を理解することは難しい。
買って帰ったパンフレットを熟読したら、出演したブラナーが「理解しようとするのではなく感じてほしい」と発言しているのをはじめ、字幕の科学監修を務めた東工大理学院助教・山崎詩郎氏が「理解の及ばないシーンもあり、(研究すべき)不完全な点がある」、さらにSF翻訳家・大森望氏も「あと5回くらい観ないと結論は出ないかもしれない」と書いているくらいだから。

ううむ、とすると、A先生もリピートするべきか。
いや、やっぱり、WOWOW放送時に録画して一時停止と巻き戻しをしながら観たほうがいいか。

採点は80点です。

TOHOシネマズ新宿・日比谷、丸の内ピカデリー、シネクイント、109シネマズ木場などで全国ロードショー公開中

2020劇場公開映画鑑賞リスト
※50点=落胆😞 60点=退屈🥱 70点=納得☺️ 80点=満足😊 90点=興奮🤩(お勧めポイント+5点)

8『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』(2020年/東宝)75点
7『ぼくが性別「ゼロ」に戻るとき 空と木の実の9年間』(2019年/Musubi Productions)85点
6『コリーニ事件』(2019年/独)85点
5『Fukushima 50 フクシマフィフティ』(2020年/東宝)80点
4『スキャンダル』(2019年/米)75点
3『リチャード・ジュエル』(2019年/米)85点
2『パラサイト 半地下の家族』(2019年/韓)90点
1『フォードvsフェラーリ』(2019年/米)85点

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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