1980年代初頭、いずれ劣らぬ特殊メイクの技術を競い合った3本の狼男映画があった。
という、あの時代の映画小僧的追憶の視点で、この映画については語りたい。
1本がロブ・ボッティンが手がけた『ハウリング』(ジョー・ダンテ監督、1981年)、もう1本がクリストファー・タッカーが担当した『狼の血族』(1984年)。
そして、これこそ特殊メイクの最高傑作と言われたのが、当時の大御所リック・ベイカーが革新的な技術を披露した本作である。
ただし、劇場公開当時、最もインパクトが強かったのは、3本の中で最初に公開された『ハウリング』だった。
狼男と言えばそれまで、『狼男』(1941年)に主演したロン・チャニー・ジュニアの毛むくじゃらの顔に大きな牙の化け物、というイメージが一般的で、狼男よりも雪男みたいな類人猿系の怪物に近かった。
そこへ、ボッティンが初めて、人間の顔の骨格そのものが狼に変身するというアイデアを具現化し、世界のホラー映画ファンの度肝を抜いたのだ。
狼男が「俺を見ろ!」と宣言すると、ニョキニョキと口元が盛り上がり、鋭い牙が生え、瞬く間に狼そのものに変身していく場面はものすごいインパクトを感じさせた。
ボッティンの師匠ベイカーもまた、『ハウリング』にはびっくりさせられたらしい。
すでに『狼男アメリカン』は完成していたのだが、このまま公開したら弟子に負けてしまうからと、変身場面だけ特殊メイクを全面的に改め、一から撮り直したという。
『ハウリング』は人間から狼に変わるのが顔だけで、満月の光が差し込んでいる夜の室内、という設定で変身していた。
そこでベイカーは、顔だけでなく全身が人間から狼に変わってゆく過程をじっくりとリアルに描き込んで、しかも特殊メイクの細部まではっきりと見えるよう、照明をともした明るい部屋で変身させている。
いまでも十分に見応えがあり、CGが導入される前の時代ならやはりこれがベストだろう、と納得できる出来映え。
未見のホラー映画ファン、及び特殊メイクマニアはぜひ一度チェックすることをお勧めする。
もっとも、当時のポスター(画像)で明らかなように、作品自体は正攻法のホラーではなく、コメディー映画として作られている。
監督は『ケンタッキー・フライド・ムービー』(1977年)、『アニマル・ハウス』(1978年)などでいまもカルト的な人気を誇るコメディーの鬼才ジョン・ランディス。
本作では主人公をごく普通のアメリカの大学生(デヴィッド・ノートン)、彼が狼男に変身して暴れ回る舞台をロンドンに設定したアイデアが洒落ている。
ノートンが悪友のグリフィン・ダンとイギリス郊外の田舎町へヒッチハイク旅行に出かけて狼男に襲われる。
ダンは死んだが、ノートンは一命を取り留め、ロンドンの病院に入院。
そこへ、血みどろの亡霊と化したダンが化けて出てこう言うのだ。
「実は、おまえはもう狼男になっていて、満月の夜になったら変身して人を食い殺して回るだろう。
だから正気でいられる人間でいるうちに自殺しろ」
そう言い募るダンは、亡霊のくせに現れるたびにだんだん身体が腐敗。
「お前が早く死なないから、おれもこんなカッコでこの世をうろついてなきゃいけないんだ!」と愚痴るところが何ともおかしい。
ノートンと恋仲になる病院の看護師役が、当時の清純派ジェニー・アガター。
ぼくにとっては懐かしい女優さんで、オッパイをチラリと見せてくれるのがこのトシになってもちょっとうれしかったりする。
ストーリーが一本調子、テイストが中途半端、クライマックスが尻窄みなど、いろいろと欠点は多い。
が、ホラー映画ファンにとってマストのアイテムであることも間違いないカルト映画の1本。
お勧め度は資料的価値を加味してB。
旧サイト:2015年06月13日(土)付Pick-upより再録
ブルーレイ&DVDレンタルお勧め度2020リスト
A=ぜひ!🤗 B=よかったら😉 C=気になったら😏 D=ヒマだ ったら😑
※再見、及び旧サイトからの再録
129『ウルフ』(1994年/米)B
128『パルプ・フィクション』(1994年/米)A
127『トゥルー・クライム』(1999年/米)C
126『ブラッド・ワーク』(2002年/米)B
125『ハウス・オブ・カード 野望の階段 シーズン4』(2016年/米)B
124『ザ・コミー・ルール 元FBI長官の告白』(2020年/米)B
123『ジェミニマン』(2019年/米)B
122『ガール・イン・ザ・ミラー』(2019年/加)B
121『ドッペルゲンガー』(2003年/アミューズピクチャーズ)B
120『屍人荘の殺人』(2019年/東宝)B
119『ドクター・スリープ』(2019年/米)B
118『ランス・アームストロング ツール・ド・フランス7冠の真実』(2013年/米)A※
117『疑惑のチャンピオン』(2015年/英、仏)B※
116『陽だまりのグラウンド』(2001年/米)B
115『ホテル・ムンバイ』(2019年/豪、印、米)A
114『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』(2018年/松竹)B
113『閉鎖病棟−それぞれの朝−』(2019年/東映)C
112『真実』(2019年/仏、日)A
111『氷の微笑』(1992年/米)B
110『チャーリーズ・エンジェル』(2019年/米)C
109『FBI:特別捜査班 シーズン1 #22対決の時』(2019年/米)C
108『FBI:特別捜査班 シーズン1 #21隠された顔』(2019年/米)B
107『FBI:特別捜査班 シーズン1 #20エジプトの要人』(2019年/米)B
106『轢き逃げ 最高の最悪な日々』(2019年/東宝)B
105『蜜蜂と遠雷』(2019年/東宝)B
104『ワン・カップ・オブ・コーヒー 栄光のマウンド』(1991年/米)A
103『ドリーム・ゲーム 夢を追う男』(1991年/米)B※
102『スラッガーズ・ワイフ』(1985年/米)B
101『死霊のはらわた』(2013年/米)C※
100『死霊のはらわた』(1981年/米)A※
99『脱出』(1972年/米)A※
98『ラスト・ムービースター』(2018年/米)B
97『ハウス・オブ・カード 野望の階段 シーズン3』(2015年/米)A
96『FBI:特別捜査官 シーズン1 #19白い悪魔』(2019年/米)B
95『FBI:特別捜査官 シーズン1 #18ラクロイ捜査官』(2019年/米)C
94『FBI:特別捜査班 シーズン1 #17秘密のデート』(2019年/米)C
93『世界の涯ての鼓動』(2017年/独、仏、西、米)C
92『殺人鬼を飼う女』(2019年/KADOKAWA)D
91『軍旗はためく下に』(1972年/東宝)A※
90『イングリッシュ・ペイシェント』(1996年/米)B
89『ラスト、コーション』(2007年/台、香、米)A
88『サンセット大通り』(1950年/米)A※
87『深夜の告白』(1944年/米)A
86『救命艇』(1944年/米)B※
85『第3逃亡者』(1937年/英)B※
84『サボタージュ』(1936年/英)B※
83『三十九夜』(1935年/英)A※
82『ファミリー・プロット』(1976年/米)A※
81『引き裂かれたカーテン』(1966年/米)C
80『大いなる勇者』(1972年/米)A※
79『さらば愛しきアウトロー』(2018年/米)A
78『インターステラー』(2014年/米)A※
77『アド・アストラ』(2019年/米)B
76『FBI:特別捜査班 シーズン1 #16ラザロの誤算』(2019年/米)C
75『FBI:特別捜査班 シーズン1 #15ウォール街と爆弾』(2019年/米)C
74『FBI:特別捜査班 シーズン1 #14謎のランナー』(2019年/米)D
73『FBI:特別捜査班 シーズン1 #13失われた家族』(2019年/米)D
72『ハウス・オブ・カード 野望の階段 シーズン2』(2014年/米)A
71『記憶にございません!』(2019年/東宝)B
70『新聞記者』(2019年/スターサンズ、イオンエンターテイメント)B
69『復活の日』(1980年/東宝)B※
68『100万ドルのホームランボール 捕った!盗られた!訴えた!』(2004年/米)B
67『ロケットマン』(2019年/米)B
66『ゴールデン・リバー』(2018年/米、仏、羅、西)B
65『FBI:特別捜査班 シーズン1 #12憎しみの炎』(2019年/米)B
64『FBI:特別捜査班 シーズン1 #11親愛なる友へ』(2019年/米)B
63『FBI:特別捜査班 シーズン1 #10武器商人の信条』(2018年/米)A
62『FBI:特別捜査班 シーズン1 #9死の極秘リスト』(2018年/米)B
61『病院坂の首縊りの家』(1979年/東宝)C
60『女王蜂』(1978年/東宝)C
59『メタモルフォーゼ 変身』(2019年/韓)C
58『シュラシック・ワールド 炎の王国』(2018年/米)C
57『ハウス・オブ・カード 野望の階段 シーズン1』(2013年/米)A
56『FBI:特別捜査班 シーズン1 #8主権を有する者』(2018年/米)C
55『FBI:特別捜査班 シーズン1 #7盗っ人の仁義』(2018年/米)B
54『FBI:特別捜査班 シーズン1 #6消えた子供』(2018年/米)B
53『FBI:特別捜査班 シーズン1 #5アローポイントの殺人』(2018年/米)A
52『アメリカン・プリズナー』(2017年/米)D
51『夜の訪問者』(1970年/伊、仏)D
50『運命は踊る』(2017年/以、独、仏、瑞)B
49『サスペクト−薄氷の狂気−』(2018年/加)C
48『ザ・ボート』(2018年/馬)B
47『アルキメデスの大戦』(2019年/東宝)B
46『Diner ダイナー』(2019年/ワーナー・ブラザース)C
45『ファントム・スレッド』(2017年/米)A
44『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019年/米)B
43『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』(2019年/米)A
42『スパイダーマン:ホームカミング』(2017年/米)A
41『ビリーブ 未来への大逆転』(2018年/米)B
40『ワンダー 君は太陽』(2017年/米)A
39『下妻物語』(2004年/東宝)A
38『コンフィデンスマンJP ロマンス編』(2019年/東宝)C
37『FBI:特別捜査班 シーズン1 #2緑の鳥』(2018年/米)A
36『FBI:特別捜査班 シーズン1 #1ブロンクス爆破事件』(2018年/米)B
35『THE GUILTY ギルティ』(2018年/丁)A
34『ザ・ラウデスト・ボイス−アメリカを分断した男−』(2019年/米)A
33『X-MEN:アポカリプス』(2016年/米)B※
32『X-MEN:フューチャー&パスト』(2014年/米)C※
31『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』(2011年/米)B※
30『X-MEN:ダーク・フェニックス』(2019年/米)D
29『ヴァンパイア 最期の聖戦』(1999年/米)B
28『クリスタル殺人事件』(1980年/英)B
27『帰ってきたヒトラー』(2015年/独)A※
26『ヒトラー〜最期の12日間〜』(2004年/独、伊、墺)A※
25『ヒトラー暗殺、13分の誤算』(2015年/独)A
24『ハートブレイク・リッジ 勝利の戦場』(1986年/米)B
23『大脱出2』(2018年/中、米)D
22『大脱出』(2013年/米)B※
21『記者たち 衝撃と畏怖の真実』(2018年/米)B
20『ハンターキラー 潜航せよ』(2018年/米)C
19『グリーンブック』(2018年/米)A
18『ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男』(2017年/英、米)B
17『天才作家の妻 40年目の真実』(2018年/瑞、英、米)B
16『デッドラインU.S.A』(1954年/米)B
15『海にかかる霧』(2014年/韓)A※
14『スノーピアサー』(2013年/韓、米、仏)A※
13『前科者』(1939年/米)
12『化石の森』(1936年/米)B
11『炎の人ゴッホ』(1956年/米)B※
10『チャンピオン』(1951年/米)B※
9『白熱』(1949年/米)A
8『犯罪王リコ』(1930年/米)B
7『ユリシーズ 』(1954年/伊)C
6『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』(2017年/泰)B
5『七つの会議』(2019年/東宝)A
4『キャプテン・マーベル』(2019年/米)B
3『奥さまは魔女』(2005年/米)C
2『フロントランナー』(2018年/米)B
1『運び屋』(2018年/米)A