9月の連休中に参加した西伊豆のMTBツアーでは、山伏トレイルでSサイズのフルサスバイクをレンタルしました。
そこでガイドさんに勧められ、初めて乗ったのが、シマノXTRのコンポーネントを搭載したメリダのマウンテンバイク。
これがまことに走りやすく、正直なところ、上りはともかく、自転車にしがみついてさえいれば、下りは難なくクリアできてしまいそうな感じ。
ビビリでヘタクソなA先生は降りて押すこともしばしばでしたが、このバイクなら初心者でも十分テクニカルなトレイルを楽しめるんじゃないか。
このメリダは世界的トップブランドとして知られており、本拠地は台湾。
台湾と言えば、いまや世界有数の自転車立国で、メリダをしのいで同国ナンバーワンという以上に、世界最大のメーカーとして自転車界に君臨しているのが本書の主役・ジャイアントです。
僕が趣味としてスポーツバイシクル始めた2001年、ジャイアントはすでにツール・ド・フランスでもよく知られたメーカーだった。
当時、ヤン・ウルリッヒやアレクサンドル・ヴィノクロフを擁するTモバイル(ドイツ)にフレームを提供し、のちに強豪ラボバンク(オランダ)、最近では進境著しいCCC(ポーランド)をスポンサードしている。
僕自身が初めて買ったロードバイクもジャイアントのアルミ製TCR-1で、当時はまだ珍しかったカーボン製のフロントフォークが売り物だった。
恥ずかしながら、そのころはGIANTというスケールの大きさを強調したネーミングからして、てっきり本社はアメリカにあるメーカーだと思い込んでいた。
実際は、劉金標(英語名キング・リュー)という人物が1972年に創業した自転車部品メーカー、正式名称ジャイアント・マニュファクチャリング(巨大機械股份有限公司)。
自らキングと名乗り、自分の会社をジャイアントと称しているだけあり、昔から野心満々、人一倍起業精神に飛んだ人物だったと、本書で紹介されている。
最初の飛躍のきっかけとなったのは、アメリカの老舗メーカー・シュウィンのOEM(オリジナル・イクウィップメント・マニュファクチュアリング)契約を結んだこと。
ジャイアントはシュウィンの自転車製造を請け負うことで本場のノウハウを吸収し、ママチャリや業務用自転車とは異なるロードバイクやマウンテンバイクなど、価格の高い自転車を売り物とするメーカーへ成長する土台を築いた。
その後、人件費の安い中国に工場を新設し、順調に事業規模を広げていたところ、シュウィンが中国企業と手を結び、ジャイアントとの契約を解消。
このとき、劉と右腕の羅祥安(英語名トニー・ロー、のちにジャイアントCEO)は別のメーカーとの提携ではなく、自社ブランドを確率する独自路線に舵を切り、ツール・ド・フランスにも進出を果たした。
一方、ジャイアントから自転車製造のノウハウを取り入れた中国メーカーは脅威的存在に急成長。
高価格帯自転車のマーケットを作ろうとジャイアントが苦労している最中、ママチャリなどの低価格帯自転車を量産してユーザーを獲得し、〝安売り合戦〟でジャイアントを苦しめるようになっていく。
本書が俄然面白くなるのはここからで、この苦境から脱するため、台湾よりもはるかに労働人口の多い中国に〝安売り合戦〟を挑んでも敵わない、と劉と羅は判断。
メリダをはじめとする台湾国内の競合メーカーに協力を呼びかけ、「Aチーム」という業界横断組織を結成し、新たに高価格帯自転車のマーケットを広げようと目論む。
ジャイアント・ブランドが国際的な信頼と知名度を得た大きな要因として、日本有数の自動車メーカー・トヨタのノウハウの導入、同じく日本の自転車部品メーカー・シマノとの提携に成功したことも挙げられる。
緻密な分析と見通しに裏打ちされた市場開拓、モノ作りに対する愛情と探究心が、ジャイアントのサクセスストーリーの根幹を成す二本柱なのだ。
本書の終盤では、なぜブリジストン、パナソニック、ミヤタ、クワハラといったメーカーを擁する日本の自転車産業が衰退し、台湾の後塵を拝するようになったかも詳しく語られている。
中国、香港、台湾問題に詳しい著者が指摘している通り、「ジャイアント(台湾)の成功の原因を知ることは、日本の失敗の原因を知ること」だということを改めて実感させられた。
😁🤔🤓
2020読書目録
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※は再読、及び旧サイトからのレビュー再録
17『ロード・ウォリアーズ 破滅と絶頂』アニマル・ウォリアー著、児島修訳(2011年/東邦出版)😁😭😢🤔※
16『虫明亜呂無の本・1 L’arôme d’Aromu 肉体への憎しみ』虫明亜呂無著、玉木正之編(1991年/筑摩書房)😁😭🤔🤓
15『洞爺丸はなぜ沈んだか』(1980年/文藝春秋)😁😭😢🤔🤓😱
14『オッペンハイマー 原爆の父はなぜ水爆開発に反対したか』(1995年/中央公論新社)🤔🤓
13『「妖しの民」と生まれきて』笠原和夫(1998年/講談社)😁😭😢🤔🤓※
12『太平洋の生還者』上前淳一郎(1980年/文藝春秋)😁😭😳🤔🤓😖
11『ヒトラー演説 熱狂の真実』(2014年/中央公論新社)😁😳🤔🤓
10『ペスト』ダニエル・デフォー著、平井正穂訳(1973年/中央公論新社)🤔🤓😖
9『ペスト』アルベール・カミュ著、宮崎嶺雄訳(1969年/新潮社)😁😭😢🤔🤓
8『復活の日』小松左京(1975年/角川書店)🤔🤓
7『感染症の世界史』石弘之(2019年/角川書店)😁😳😱🤔🤓
6『2000年の桜庭和志』柳澤健(2020年/文藝春秋)😁🤔🤓
5『夜のみだらな鳥』ホセ・ドノソ著、鼓直訳(1984年/集英社)😳🤓😱😖
4『石蹴り遊び』フリオ・コルタサル著、土岐恒二訳(1984年/集英社)😁🤓🤔😖
3『らふ』森下くるみ(2010年/青志社)🤔☺️
2『最期のキス』古尾谷登志江(2004年/講談社)😢😳
1『黙示録 映画プロデューサー・奥山和由の天国と地獄』奥山和由、春日太一(2019年/文藝春秋)😁😳🤔