西伊豆から帰ってきたきのう、そろそろ床に就こうとしていた夜、元ロード・ウォリアーズのアニマル・ウォリアーの訃報がネット上に流れた。
60歳という年齢は今時にしてはまだ若く、死因は明らかにされていない。
(※のちに心臓発作によるものと発表された)
1980年代におけるマッチョ系プロレスラーの代表で、アニマルのパートナーだったホーク・ウォリアーは03年10月、ステロイド(筋肉増強剤)の過剰摂取が原因と見られる心臓発作のため、46歳で亡くなっている。
そのことから、アニマルの死も薬物の後遺症が原因ではないかという見方もあるようだが、僕は疑問に思う。
というのも、アニマルは2011年に上梓した自伝で、プロレス界全体を覆っていた様々な薬物禍を明らかにした上、ホークの急死にも言及。
ステロイドやアンフェタミン(興奮剤)などが人体にもたらす悪影響について、厳しく批判していたからだ。
その自伝が、画像の『ロード・ウォリアーズ 破滅と絶頂』である。
以下、旧サイトの2017年12月25日(月)付PIck-upに書いた自分のレビューを元に、本書の内容を紹介しておきたい。
〈スター・ウォーズ〉が映画界を席巻していた1980年代、プロレス界で大ブームを巻き起こしていたタッグ・チームが「ザ・ロード・ウォリアーズ」である。
アメリカではAWA、NWA(のちのWCW)、WWF、日本では全日本、新日本と、当時のメジャー団体を渡り歩いてメインイベントを張った。
著者アニマル・ウォリアーの本名がジョー・ロウリネイティスであることは覚えていたが、リトアニア人だったことは本書を読んで初めて知った。
ハイスクール時代から通っていたジムでマイク・ヘグストランドことホーク・ウォリアーと知り合い、バーの用心棒をしていたころ、バーテンをやっていたエディ・シャーキーにプロレスの世界へスカウトされる(シャーキーがバーテンだったことも初めて知った)。
僕自身がプロレスにハマっていた学生時代のプロレス回顧録でもあり、記憶に残っている個性豊かなレスラーが次から次へと登場するのが実に楽しい。
ただし、プロレスの試合の描写は非常に細かく、当時使われていた技の名前や動きが逐一詳細に書かれており、試合をテレビや動画で観ていない読者にはついていくのがしんどいだろう。
一方、大物プロモーターのジム・クロケット・ジュニアやバーン・ガニアに「きょうはおまえらの負けだ」と通告されてアニマルが憤慨したり、ホークとレックス・ルーガーが女を巡って殴り合ったり、つい吹き出してしまうエピソードも頻出する。
いま振り返れば、ロード・ウォリアーズはプロレスが世間に対してケーフェイを守っていた古き佳き時代の最後のスーパースターでもあった。
アニマルは、そうしたケーフェイの裏側もオブラートで包むことなく、次から次へと率直に描写している。
やがて、プロレスの興行やビジネスの形態が急速に近代化するにつれ、PPVやグッズの売り上げで大金を稼げるようになった半面、プロレスのあり方そのものも大きく変貌を遂げる。
業界最大の団体WWF(ワールド・レスリング・フェデレーション)を率いるビンス・マクマホン・ジュニアは、スポーツ団体に課される税金逃れのため、「われわれがやっているプロレスはスポーツではなくショーだ」とカミングアウト。
世界自然保護基金WWF(ワールド・ワイルド・ライフ・ファンド)との名称権争いにも敗れて、長年使用してきた団体名WWFをWWE(ワールド・レスリング・エンターテインメント)に変更した。
ウォリアーズも次第に落ち目になってインディー団体を転戦し、アニマルも相棒のホークとたびたび諍いを起こすようになる。
ホークが新日本で佐々木健介(パワー・ウォリアー)と組み、ヘル・レイザーズとして売り出していたころ、アニマルには事前に一言の断りもなかったことを根に持ち、2年間も口を利かなかった、というエピソードが苦い。
WWFでロード・ウォリアーズを復活させたマクマホンは、アニマルとホークを落ちぶれたヒールとして徹底的にコケにするシナリオを作る。
薬物禍もあって人格に破綻をきたしていたホークは酔っ払ってリングに上がるようになり、サードロープに足を引っ掛けて転んだり、コーナーポストでバランスを崩して落下したり。
ついにリタイアを決意したアニマルはなんと、聖職者への転身を決心。
そのきっかけを与えてくれたのが、かつてのウォリアーズのライバル・チーム、ザ・ラシアンズのニキタ・コロフ(ネルソン・スコット・シンプソン)だったというのが興味深い。
先にセミリタイアし、宣教師になっていたコロフは、1万人以上の信者が参加するキリスト教のイベントにアニマルを招待。
ここで元ヘルズエンジェルスなど、宗教団体の関係者に知り合ったアニマルは、自分でも予想だにしなかった心境の変化を覚え、信仰の世界へ急速に傾斜していった経緯を、こう綴っている。
「プロレス業界には、過去に大きな過ちを犯し、そこから立ち上がる口実として宗教を利用している節がある人間も見られるが、その手の連中はたいてい同じ過ちを繰り返す。
俺は、そんなつもりで宗教に接したくなかった」
そして、アニマルが宗教活動に専念し始めた矢先、ホークが急死。
その後、アニマルはプロレスラー時代とは打って変わって、信仰と家族を何よりも大切にする生活を送るようになり、最後には長男夫婦に孫娘が誕生したところで本書を終えている。
それでも、自分が人生を捧げたロード・ウォリアーズとしての誇りは微塵も失ってはいない。
本書の末尾を締め括る文章は、いま読み返すと非常に感動的な半面、9年後の今日の事態を予見していたように思えなくもない。
「今でも俺は確信している。
もしホークと俺が生まれ変わって、再びタッグチームを結成したとしても、結果はまったく同じだろう。
過去、現在、そして未来においても、俺たちはプロレス史上最高のタッグチームであり続ける」
旧サイト:2017年12月25日(月)付PIck-upに加筆
😁😭😢🤔
2020読書目録
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※は再読、及び旧サイトからのレビュー再録
16『虫明亜呂無の本・1 L’arôme d’Aromu 肉体への憎しみ』虫明亜呂無著、玉木正之編(1991年/筑摩書房)😁😭🤔🤓
15『洞爺丸はなぜ沈んだか』(1980年/文藝春秋)😁😭😢🤔🤓😱
14『オッペンハイマー 原爆の父はなぜ水爆開発に反対したか』(1995年/中央公論新社)🤔🤓※
13『「妖しの民」と生まれきて』笠原和夫(1998年/講談社)😁😭😢🤔🤓
12『太平洋の生還者』上前淳一郎(1980年/文藝春秋)😁😭😳🤔🤓😖
11『ヒトラー演説 熱狂の真実』(2014年/中央公論新社)😁😳🤔🤓
10『ペスト』ダニエル・デフォー著、平井正穂訳(1973年/中央公論新社)🤔🤓😖
9『ペスト』アルベール・カミュ著、宮崎嶺雄訳(1969年/新潮社)😁😭😢🤔🤓
8『復活の日』小松左京(1975年/角川書店)🤔🤓
7『感染症の世界史』石弘之(2019年/角川書店)😁😳😱🤔🤓
6『2000年の桜庭和志』柳澤健(2020年/文藝春秋)😁🤔🤓
5『夜のみだらな鳥』ホセ・ドノソ著、鼓直訳(1984年/集英社)😳🤓😱😖
4『石蹴り遊び』フリオ・コルタサル著、土岐恒二訳(1984年/集英社)😁🤓🤔😖
3『らふ』森下くるみ(2010年/青志社)🤔☺️
2『最期のキス』古尾谷登志江(2004年/講談社)😢😳
1『黙示録 映画プロデューサー・奥山和由の天国と地獄』奥山和由、春日太一(2019年/文藝春秋)😁😳🤔