『サンセット大通り』(WOWOW)🤗

Sunset Boulevard,Sunset Blvd. 110分 1950年 アメリカ=パラマウント・ピクチャーズ 

いままで記事や文献では散々読んでいながら、肝心の映画自体は一度も見たことがなかった〝個人的幻の名画〟の1本。
いい意味でも悪い意味でも、ええっ、こんな映画だったんだ、というのが第一印象でした。

中学、高校時代から繰り返し読んでいた双葉十三郎さんの批評や和田誠さんのエッセイから、てっきりハリウッドを舞台とした重厚な人間ドラマだと思い込んでいたんだよね。
サイレント時代に名声を博し、トーキーの登場によって世間に忘れ去られ、当時としては(今もか)初老の域に入る50歳になりながら、ひとり新たな主演映画のオファーを待ち続けている名女優の悲劇。

そういう主人公を、現実に同じ運命を辿ったグロリア・スワンソンが堂々たる貫禄で演じている、と書いてあったんだから、誰でもシリアスな映画だと思うわな。
ところが、実際に見てみたら、れっきとしたホラー映画だったんですよ。

しかも、主演のスワンソンも監督のビリー・ワイルダーも、テーマやメッセージをストレートに打ち出そうとせず、意識的にキワ物テイストのオブラートにくるんでつくっている。
何だこりゃ、と思いながら観ているうち、本作の話術が非常にスタイリッシュであることに気がつく。

冒頭、いきなりプールに死体となって浮かんでいるウィリアム・ホールデンが、「ぼく自身が事の真相を明らかにしよう」と語り始める。
これ、49年後に製作された『アメリカン・ビューティー』(1999年)の元ネタなんだよね。

僕自身、死人がナレーターを務めるというアイデアは、ケヴィン・スペイシーが真似した『アメリカン・ビューティー』で初めて観た。
その後、『最高の人生の見つけ方』(2007年)でも、モーガン・フリーマンがまったく同じことをやっている。

21世紀に入ったいま、ハリウッドでほぼ10年おきに模倣されている手法。
それが実は、ワイルダーがすでに1950年に考案し、実践していたものだったのです。

これにはびっくりした。
名匠の卓越した先見性、だからこそいまなお新しい作風に改めて感嘆しました。

しかし、だからこそ、ホラー映画としてつくられていることに、見終わったあとで何とも言えない違和感を感じてしまった。
というのも、ワイルダーは晩年の1979年、『悲愁』を撮っている。

この作品は『サンセット大通り』の〝セルフ・オマージュ〟であり、やはり女優の老いがテーマになっている。
伝説の名女優フェドーラの現在をフィルデガード・ネフ、若き日をマルト・ケラーが演じ、彼女と関係を持った小道具係で、映画全体の狂言回しを務めているのが、この『サンセット大通り』と同じホールデンなのである。

僕は高校時代、この『悲愁』を劇場公開時に観て大変感動した。
だから『サンセット大通り』も同じテイストの映画であってほしかったのだが、それは元映画少年の儚い思い込みでしかなかった、という一席でした。

お勧め度はAです。

旧サイト:2014年03月20日(木)付Pick-upより再録

ブルーレイ&DVDレンタルお勧め度2020リスト
A=ぜひ!🤗 B=よかったら😉 C=気になったら😏  D=ヒマだ ったら😑
※再見、及び旧サイトからの再録

87『深夜の告白』(1944年/米)A
86『救命艇』(1944年/米)B※
85『第3逃亡者』(1937年/英)B※
84『サボタージュ』(1936年/英)B※
83『三十九夜』(1935年/英)A※
82『ファミリー・プロット』(1976年/米)A※
81『引き裂かれたカーテン』(1966年/米)C
80『大いなる勇者』(1972年/米)A※
79『さらば愛しきアウトロー』(2018年/米)A
78『インターステラー』(2014年/米)A
77『アド・アストラ』(2019年/米)B
76『FBI:特別捜査班 シーズン1 #16ラザロの誤算』(2019年/米)C
75『FBI:特別捜査班 シーズン1 #15ウォール街と爆弾』(2019年/米)C
74『FBI:特別捜査班 シーズン1 #14謎のランナー』(2019年/米)D
73『FBI:特別捜査班 シーズン1 #13失われた家族』(2019年/米)D
72『ハウス・オブ・カード 野望の階段 シーズン2』(2014年/米)A
71『記憶にございません!』(2019年/東宝)B
70『新聞記者』(2019年/スターサンズ、イオンエンターテイメント)B
69『復活の日』(1980年/東宝)B
68『100万ドルのホームランボール 捕った!盗られた!訴えた!』(2004年/米)B
67『ロケットマン』(2019年/米)B
66『ゴールデン・リバー』(2018年/米、仏、羅、西)B
65『FBI:特別捜査班 シーズン1 #12憎しみの炎』(2019年/米)B
64『FBI:特別捜査班 シーズン1 #11親愛なる友へ』(2019年/米)B
63『FBI:特別捜査班 シーズン1 #10武器商人の信条』(2018年/米)A
62『FBI:特別捜査班 シーズン1 #9死の極秘リスト』(2018年/米)B
61『病院坂の首縊りの家』(1979年/東宝)C
60『女王蜂』(1978年/東宝)C
59『メタモルフォーゼ 変身』(2019年/韓)C
58『シュラシック・ワールド 炎の王国』(2018年/米)C
57『ハウス・オブ・カード 野望の階段 シーズン1』(2013年/米)A
56『FBI:特別捜査班 シーズン1 #8主権を有する者』(2018年/米)C
55『FBI:特別捜査班 シーズン1 #7盗っ人の仁義』(2018年/米)B
54『FBI:特別捜査班 シーズン1 #6消えた子供』(2018年/米)B
53『FBI:特別捜査班 シーズン1 #5アローポイントの殺人』(2018年/米)A
52『アメリカン・プリズナー』(2017年/米)D
51『夜の訪問者』(1970年/伊、仏)D
50『運命は踊る』(2017年/以、独、仏、瑞)B
49『サスペクト−薄氷の狂気−』(2018年/加)C
48『ザ・ボート』(2018年/馬)B
47『アルキメデスの大戦』(2019年/東宝)B
46『Diner ダイナー』(2019年/ワーナー・ブラザース)C
45『ファントム・スレッド』(2017年/米)A
44『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019年/米)B
43『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』(2019年/米)A
42『スパイダーマン:ホームカミング』(2017年/米)A
41『ビリーブ 未来への大逆転』(2018年/米)B
40『ワンダー 君は太陽』(2017年/米)A
39『下妻物語』(2004年/東宝)A
38『コンフィデンスマンJP ロマンス編』(2019年/東宝)C
37『FBI:特別捜査班 シーズン1 #2緑の鳥』(2018年/米)A
36『FBI:特別捜査班 シーズン1 #1ブロンクス爆破事件』(2018年/米)B
35『THE GUILTY ギルティ』(2018年/丁)A
34『ザ・ラウデスト・ボイス−アメリカを分断した男−』(2019年/米)A
33『X-MEN:アポカリプス』(2016年/米)B※
32『X-MEN:フューチャー&パスト』(2014年/米)C※
31『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』(2011年/米)B※
30『X-MEN:ダーク・フェニックス』(2019年/米)D
29『ヴァンパイア 最期の聖戦』(1999年/米)B
28『クリスタル殺人事件』(1980年/英)B
27『帰ってきたヒトラー』(2015年/独)A※
26『ヒトラー〜最期の12日間〜』(2004年/独、伊、墺)A
25『ヒトラー暗殺、13分の誤算』(2015年/独)A
24『ハートブレイク・リッジ 勝利の戦場』(1986年/米)B
23『大脱出2』(2018年/中、米)D
22『大脱出』(2013年/米)B
21『記者たち 衝撃と畏怖の真実』(2018年/米)B
20『ハンターキラー 潜航せよ』(2018年/米)C
19『グリーンブック』(2018年/米)A
18『ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男』(2017年/英、米)B
17『天才作家の妻 40年目の真実』(2018年/瑞、英、米)B
16『デッドラインU.S.A』(1954年/米)B
15『海にかかる霧』(2014年/韓)A※
14『スノーピアサー』(2013年/韓、米、仏)A※

13『前科者』(1939年/米)
12『化石の森』(1936年/米)B
11『炎の人ゴッホ』(1956年/米)B※
10『チャンピオン』(1951年/米)B※

9『白熱』(1949年/米)A
8『犯罪王リコ』(1930年/米)B
7『ユリシーズ 』(1954年/伊)C
6『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』(2017年/泰)B
5『七つの会議』(2019年/東宝)A
4『キャプテン・マーベル』(2019年/米)B
3『奥さまは魔女』(2005年/米)C
2『フロントランナー』(2018年/米)B
1『運び屋』(2018年/米)A

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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