サスペンスの神様、ヒッチコックが76歳で完成させた遺作は洒落っ気たっぷり、コメディー・タッチの快作だった。
他界したのは本作の公開から4年後だが、すでに撮影当時から体力の衰えを痛感していたらしい。
ジュリー・ハリス演じるインチキ霊媒師が、大金持ちの独居老人女性を相手に降霊術をやって見せる幕開けからして、何とも人を食った出だし。
ハリスの恋人が冴えないタクシー運転手のブルース・ダーンで、ハリスに「きょうは泊まってってよ!」と〝夜のお勤め〟をせがまれるたび、用があるとか仕事が忙しいとか言い訳をしては逃げを打つダメ男ぶりが笑わせる。
序盤、そのダーンがハリスを後ろに乗せてタクシーを飛ばしている最中、目の前をブロンドにサングラスの女が横切り、ダーンが慌てて急ブレーキをかける。
すると、カメラはそのままブロンドを追いかけ、この女カレン・ブラックと情夫の宝石商ウィリアム・ディベインの営利誘拐を描いたシークェンスに移行。
この種の視点の転換は恐らくジョン・ハーツフェルドの傑作『2 days トゥー・デイズ』(1996年)あたりでハリウッド映画のスタンダードな手法として定着。
その後、ポール・トーマス・アンダーソンの『マグノリア』(1999年)、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥの『バベル』(2006年)でさらに大掛かりな発展形へと昇華されることになる。
そうしたエピゴーネンが輩出する20年前、ヒッチコックは本作でその原型ともいうべき語り口を披露しているわけだ。
かくしてダーン&ハリスの詐欺師カップル、ディベイン&ブラックの誘拐カップルがどのように交錯し、どっちが大金をせしめるのか、という本筋へ入ってゆく。
ダーン&ハリスは当初、大金持ちの女性に頼まれ、彼女からの謝礼を目当てにディベインに接触しようとする。
一方、ディベイン&ブラックのほうは自分の正体を知られたからには生かしておけないと、配下のエド・ローターを使って殺害を計画。
そのローターが〝返り討ち〟に遭う経緯が何とも間抜けで、ダーン&ハリスがディベイン&ブラックに囚われながら逆襲に転じる〝頭脳プレー〟も痛快。
さらに、オチでもう一押し、のワンカットがいい。
『北北西に進路を取れ』(1959年)、『サイコ』(1960年)、『鳥』(1961年)といった大作の比べるといかにも小ぢんまりしていてB級プログラム的な雰囲気が濃いが、それもまたほかのヒッチコック作品にはない魅力。
ヒッチコック先生には、こういう軽妙なタッチの作品をあと2~3本は撮ってほしかったな。
オススメ度A。
旧サイト:2017年06月2日(金)付Pick-upより再録
ブルーレイ&DVDレンタルお勧め度2020リスト
A=ぜひ!🤗 B=よかったら😉 C=気になったら😏 D=ヒマだ ったら😑
※再見、及び旧サイトからの再録
81『引き裂かれたカーテン』(1966年/米)C
80『大いなる勇者』(1972年/米)A※
79『さらば愛しきアウトロー』(2018年/米)A
78『インターステラー』(2014年/米)A※
77『アド・アストラ』(2019年/米)B
76『FBI:特別捜査班 シーズン1 #16ラザロの誤算』(2019年/米)C
75『FBI:特別捜査班 シーズン1 #15ウォール街と爆弾』(2019年/米)C
74『FBI:特別捜査班 シーズン1 #14謎のランナー』(2019年/米)D
73『FBI:特別捜査班 シーズン1 #13失われた家族』(2019年/米)D
72『ハウス・オブ・カード 野望の階段 シーズン2』(2014年/米)A
71『記憶にございません!』(2019年/東宝)B
70『新聞記者』(2019年/スターサンズ、イオンエンターテイメント)B
69『復活の日』(1980年/東宝)B※
68『100万ドルのホームランボール 捕った!盗られた!訴えた!』(2004年/米)B
67『ロケットマン』(2019年/米)B
66『ゴールデン・リバー』(2018年/米、仏、羅、西)B
65『FBI:特別捜査班 シーズン1 #12憎しみの炎』(2019年/米)B
64『FBI:特別捜査班 シーズン1 #11親愛なる友へ』(2019年/米)B
63『FBI:特別捜査班 シーズン1 #10武器商人の信条』(2018年/米)A
62『FBI:特別捜査班 シーズン1 #9死の極秘リスト』(2018年/米)B
61『病院坂の首縊りの家』(1979年/東宝)C
60『女王蜂』(1978年/東宝)C
59『メタモルフォーゼ 変身』(2019年/韓)C
58『シュラシック・ワールド 炎の王国』(2018年/米)C
57『ハウス・オブ・カード 野望の階段 シーズン1』(2013年/米)A
56『FBI:特別捜査班 シーズン1 #8主権を有する者』(2018年/米)C
55『FBI:特別捜査班 シーズン1 #7盗っ人の仁義』(2018年/米)B
54『FBI:特別捜査班 シーズン1 #6消えた子供』(2018年/米)B
53『FBI:特別捜査班 シーズン1 #5アローポイントの殺人』(2018年/米)A
52『アメリカン・プリズナー』(2017年/米)D
51『夜の訪問者』(1970年/伊、仏)D
50『運命は踊る』(2017年/以、独、仏、瑞)B
49『サスペクト−薄氷の狂気−』(2018年/加)C
48『ザ・ボート』(2018年/馬)B
47『アルキメデスの大戦』(2019年/東宝)B
46『Diner ダイナー』(2019年/ワーナー・ブラザース)C
45『ファントム・スレッド』(2017年/米)A
44『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019年/米)B
43『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』(2019年/米)A
42『スパイダーマン:ホームカミング』(2017年/米)A
41『ビリーブ 未来への大逆転』(2018年/米)B
40『ワンダー 君は太陽』(2017年/米)A
39『下妻物語』(2004年/東宝)A
38『コンフィデンスマンJP ロマンス編』(2019年/東宝)C
37『FBI:特別捜査班 シーズン1 #2緑の鳥』(2018年/米)A
36『FBI:特別捜査班 シーズン1 #1ブロンクス爆破事件』(2018年/米)B
35『THE GUILTY ギルティ』(2018年/丁)A
34『ザ・ラウデスト・ボイス−アメリカを分断した男−』(2019年/米)A
33『X-MEN:アポカリプス』(2016年/米)B※
32『X-MEN:フューチャー&パスト』(2014年/米)C※
31『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』(2011年/米)B※
30『X-MEN:ダーク・フェニックス』(2019年/米)D
29『ヴァンパイア 最期の聖戦』(1999年/米)B
28『クリスタル殺人事件』(1980年/英)B
27『帰ってきたヒトラー』(2015年/独)A※
26『ヒトラー〜最期の12日間〜』(2004年/独、伊、墺)A※
25『ヒトラー暗殺、13分の誤算』(2015年/独)A
24『ハートブレイク・リッジ 勝利の戦場』(1986年/米)B
23『大脱出2』(2018年/中、米)D
22『大脱出』(2013年/米)B※
21『記者たち 衝撃と畏怖の真実』(2018年/米)B
20『ハンターキラー 潜航せよ』(2018年/米)C
19『グリーンブック』(2018年/米)A
18『ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男』(2017年/英、米)B
17『天才作家の妻 40年目の真実』(2018年/瑞、英、米)B
16『デッドラインU.S.A』(1954年/米)B
15『海にかかる霧』(2014年/韓)A※
14『スノーピアサー』(2013年/韓、米、仏)A※
13『前科者』(1939年/米)
12『化石の森』(1936年/米)B
11『炎の人ゴッホ』(1956年/米)B※
10『チャンピオン』(1951年/米)B※
9『白熱』(1949年/米)A
8『犯罪王リコ』(1930年/米)B
7『ユリシーズ 』(1954年/伊)C
6『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』(2017年/泰)B
5『七つの会議』(2019年/東宝)A
4『キャプテン・マーベル』(2019年/米)B
3『奥さまは魔女』(2005年/米)C
2『フロントランナー』(2018年/米)B
1『運び屋』(2018年/米)A