『新聞記者』(WOWOW)😉

113分 2019年 スターサンズ、イオンエンターテイメント

東京新聞(中日新聞社)社会部記者・望月衣塑子の原案を元に映画化され、昨年の日本アカデミー賞の最優秀作品賞、最優秀男優賞(松坂桃李)、最優秀女優賞(シム・ウンギョン)を受賞するなど、高く評価された社会派映画。
現実の安倍政権下で過去に発生、及び現在進行中の複数の事件がモデルになっており、これまでに数多く作られたエンターテインメント的ポリティカル・フィクションとは一線を画している。

冒頭でレイプ被害者の女性が記者会見に登場するくだりは、明らかにフリージャーナリスト・伊藤詩織に対するレイプ事件と揉み消し疑惑のこと。
主人公の東都新聞記者・吉岡エリカ(ウンギョン)がこの会見を取材し、原稿を書いたら写真のないベタ記事扱いを受け、上司の陣野和正(北村有起哉)が上層部から圧力を受けたことを匂わせる場面が生々しい。

新潟の国家戦略特区に新しい医科大が作られる計画は言うまでもなく加計学園の獣医学部新設問題で、内閣府の下級官僚の投身自殺は森友事件で公文書の改竄を強要されて命を絶った財務省近畿財務局の赤木俊夫さんを即座に想起させる。
赤木さんの享年は54で、映画版で身を投げる神崎利尚(高橋和也)が50と、年齢や家族構成の設定も現実の事件にそっくりだ。

神崎は生前、匿名で医科大新設に関する内部文書を東都新聞などメディア各社に送り、重大な疑惑を告発しようとしていた。
その疑惑とはいったい何か、なぜ神崎は志半ばで自ら死を選ばなければならなかったのか、外務省で神崎に可愛がられていた内閣情報調査室の杉原拓海(松坂桃李)は記者の吉岡と協力し合って真相究明に乗り出すのだが。

現実の安倍政権が抱えた問題を真正面から取り上げているところは、巷間言われているように確かに野心的な試みであり、大いに評価されていい。
日本の女優が軒並みオファーを断ったために白羽の矢が立てられたというウンギョン、内調の告発を決意する松坂の熱演も素晴らしく、手持ちカメラでドキュメンタリータッチを強調した藤井道人監督の演出にも引きつけられた。

しかし、出来上がった映画はあくまでもフィクションであり、様々な細部を現実に近づければ近づけるほど、ヤマ場で明らかな創作部分にぶつかると、やっぱりしょせんは作り物なのか、という冷めた感慨がどうしても湧く。
また、現実に存在する内調のオフィスがどのようなものなのか、まったく情報が得られなかったからか、不条理劇じみた簡素なセットにしているあたりも苦しいと言えば苦しい。

もっと言うなら、この映画は観客を楽しませたいのか、それとも安倍政権の告発をしたいのか、最後まで曖昧なままに終わっている感も否めない。
こういう作品が製作された意義は十分に理解できるものの、そういう製作者たちの姿勢と映画としての面白さや完成度に対する評価は別である。

オススメ度B。

ブルーレイ&DVDレンタルお勧め度2020リスト
A=ぜひ!🤗 B=よかったら😉 C=気になったら😏  D=ヒマだ ったら😑
※再見、及び旧サイトからの再録

69『復活の日』(1980年/東宝)B
68『100万ドルのホームランボール 捕った!盗られた!訴えた!』(2004年/米)B
67『ロケットマン』(2019年/米)B
66『ゴールデン・リバー』(2018年/米、仏、羅、西)B
65『FBI:特別捜査班 シーズン1 #12憎しみの炎』(2019年/米)B
64『FBI:特別捜査班 シーズン1 #11親愛なる友へ』(2019年/米)B
63『FBI:特別捜査班 シーズン1 #10武器商人の信条』(2018年/米)A
62『FBI:特別捜査班 シーズン1 #9死の極秘リスト』(2018年/米)B
61『病院坂の首縊りの家』(1979年/東宝)C
60『女王蜂』(1978年/東宝)C
59『メタモルフォーゼ 変身』(2019年/韓)C
58『シュラシック・ワールド 炎の王国』(2018年/米)C
57『ハウス・オブ・カード 野望の階段 シーズン1』(2013年/米)A
56『FBI:特別捜査班 シーズン1 #8主権を有する者』(2018年/米)C
55『FBI:特別捜査班 シーズン1 #7盗っ人の仁義』(2018年/米)B
54『FBI:特別捜査班 シーズン1 #6消えた子供』(2018年/米)B
53『FBI:特別捜査班 シーズン1 #5アローポイントの殺人』(2018年/米)A
52『アメリカン・プリズナー』(2017年/米)D
51『夜の訪問者』(1970年/伊、仏)D
50『運命は踊る』(2017年/以、独、仏、瑞)B
49『サスペクト−薄氷の狂気−』(2018年/加)C
48『ザ・ボート』(2018年/馬)B
47『アルキメデスの大戦』(2019年/東宝)B
46『Diner ダイナー』(2019年/ワーナー・ブラザース)C
45『ファントム・スレッド』(2017年/米)A
44『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019年/米)B
43『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』(2019年/米)A
42『スパイダーマン:ホームカミング』(2017年/米)A
41『ビリーブ 未来への大逆転』(2018年/米)B
40『ワンダー 君は太陽』(2017年/米)A
39『下妻物語』(2004年/東宝)A
38『コンフィデンスマンJP ロマンス編』(2019年/東宝)C
37『FBI:特別捜査班 シーズン1 #2緑の鳥』(2018年/米)A
36『FBI:特別捜査班 シーズン1 #1ブロンクス爆破事件』(2018年/米)B
35『THE GUILTY ギルティ』(2018年/丁)A
34『ザ・ラウデスト・ボイス−アメリカを分断した男−』(2019年/米)A
33『X-MEN:アポカリプス』(2016年/米)B※
32『X-MEN:フューチャー&パスト』(2014年/米)C※
31『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』(2011年/米)B※
30『X-MEN:ダーク・フェニックス』(2019年/米)D
29『ヴァンパイア 最期の聖戦』(1999年/米)B
28『クリスタル殺人事件』(1980年/英)B
27『帰ってきたヒトラー』(2015年/独)A※
26『ヒトラー〜最期の12日間〜』(2004年/独、伊、墺)A
25『ヒトラー暗殺、13分の誤算』(2015年/独)A
24『ハートブレイク・リッジ 勝利の戦場』(1986年/米)B
23『大脱出2』(2018年/中、米)D
22『大脱出』(2013年/米)B
21『記者たち 衝撃と畏怖の真実』(2018年/米)B
20『ハンターキラー 潜航せよ』(2018年/米)C
19『グリーンブック』(2018年/米)A
18『ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男』(2017年/英、米)B
17『天才作家の妻 40年目の真実』(2018年/瑞、英、米)B
16『デッドラインU.S.A』(1954年/米)B
15『海にかかる霧』(2014年/韓)A※
14『スノーピアサー』(2013年/韓、米、仏)A※

13『前科者』(1939年/米)
12『化石の森』(1936年/米)B
11『炎の人ゴッホ』(1956年/米)B※
10『チャンピオン』(1951年/米)B※

9『白熱』(1949年/米)A
8『犯罪王リコ』(1930年/米)B
7『ユリシーズ 』(1954年/伊)C
6『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』(2017年/泰)B
5『七つの会議』(2019年/東宝)A
4『キャプテン・マーベル』(2019年/米)B
3『奥さまは魔女』(2005年/米)C
2『フロントランナー』(2018年/米)B
1『運び屋』(2018年/米)A

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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