日本SF文学の巨人・小松左京が、何という皮肉で象徴的な巡り合わせか、最初の東京オリンピックが行われた1964年に上梓したパンデミック小説の古典。
1980年には角川春樹製作、深作欣二監督、草刈正雄やオリビア・ハッセーなど、日米オールスターキャストで映画化もされている。
映画版は劇場公開時に観たが、当時の角川映画の常で、規模の大きな話題作だった割にはそれほど感動を覚えず、原作にまでは手が伸びなかった。
その後、この角川文庫版も長らく書店の本棚から消えていた。
それがここにきて再版されているのは言うまでもなく、半世紀以上経って現実化した新型コロナウイルスのパンデミックがきっかけである。
ちょうど緊急事態宣言の最中に読んだ本作は、昔のSF小説とは思えないほどのリアリティを感じさせ、これが現実にならなければいいのだが、という思いが何度もよぎった。
人類を絶滅寸前に追い込む病原菌MM−88に対し、人間たちは最初のうち、誰も彼も「たかが風邪じゃないか」とたかをくくっていた。
おかげで対策や治療が後手に回って、たちまち世界中に広まってゆくくだりは、現在の新型コロナ禍に気味が悪いほどよく似ている。
いまから56年も前の小説なので、まだインターネットもSNSもない。
それでも、感染の拡大につれて、行楽地の観光客減少、プロ野球の日程見直し、株価の急落、失業者の急増などが次々に新聞に報じられるあたりは2020年の日本にそっくりで、大変生々しさを感じさせる。
南極に残された1万人の〝最後の人類〟がどうやって種の存続を図るか、という終盤の読ませどころも、オリビア・ハッセーがくじ引きに当たった男と生殖行為に及ぶ映画版より説得力がある。
ただし、映画版で草刈正雄が演じた主人公・吉住はあまり物語の前面に出てこず、人物像もそれほど深くは描き込まれていない。
小説としてのヤマ場のひとつは、後半に登場するヘルシンキ大学文明史担当教授ユージン・スミルノフがラジオ放送で人類の愚行を延々と悔いる長広舌。
ここには明らかに、ドストエフスキー『カラマーゾフの兄弟』の「大審問官」の影響がうかがえる。
新型コロナ禍によって人類が生活、経済、文明を脅かされている今日、スミルノフ教授の言葉から何らかの示唆を読み取ることも可能だろう。
日本の作家が書き上げた、パンデミックを題材とした文学作品として、現代のコロナ時代を生きる日本人にとっても再読する価値は十分。
本書のあと、カミュやデフォーの『ペスト』も読んだが、ことインフルエンザが題材であるという点、さらに日本人読者に対する説得力においては、この『復活の日』こそ、いまこそ読まれなければならない作品だと、A先生は思う。
そして、現実に復活の日が来ることを信じたい、いや、信じています。
🤔🤓
2020読書目録
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※は再読、及び旧サイトからのレビュー再録
7『感染症の世界史』石弘之(2019年/角川書店)😁😳😱🤔🤓
6『2000年の桜庭和志』柳澤健(2020年/文藝春秋)😁🤔🤓
5『夜のみだらな鳥』ホセ・ドノソ著、鼓直訳(1984年/集英社)😳🤓😱😖
4『石蹴り遊び』フリオ・コルタサル著、土岐恒二訳(1984年/集英社)😁🤓🤔😖
3『らふ』森下くるみ(2010年/青志社)🤔☺️
2『最期のキス』古尾谷登志江(2004年/講談社)😢😳
1『黙示録 映画プロデューサー・奥山和由の天国と地獄』奥山和由、春日太一(2019年/文藝春秋)😁😳🤔