これはなかなか洒落ていて、しみじみと心温まるドキュメンタリーでした。
視覚障害のある男3人、女1人が、「目が見えなくたって恋人がほしい!」と果敢にパートナー探しにチャレンジする姿が描かれる。
最初に登場するアフリカ系のマリオは、メリーランド州で4人の養子を育てながら、出会い系サイトで自分の子供を生んでくれる女性を探している。
が、相手に会うときはいつも、自分が全盲であることを隠しているため、ドン引きされてばかり。
待ち合わせ場所に連れて行ってくれる姉は、「アンタ、それズルイよ!」。
やっと会ってくれた女性は「初対面だからと思って念入りにメークしてきたのに! このまつ毛立てるのに1時間もかかったのよ!」。
ニューヨークで暮らすソロモンは、病気で10代のうちに視力を失った。
同じ視覚障害を持つ女性と知り合い、何とかデートにこぎつけるが、自分をサポートしてくれる家族のいるフロリダのフォートローダーデールを離れられない、と言われてしまう。
テキサス州在住のジョニは、遺伝性の網膜色素変性症で徐々に視力を失い、社交ダンスに生きがいを見出している。
目が不自由でも真剣に付き合いたい、と言ってくれる男性がいて、何度もデートを重ねているが、過去に恋愛で傷ついたトラウマから、そこから先のもう一歩を踏み出せない。
ただ、目が見えない彼女にとっては、ふつうに男性と触れ合えるダンス、愛してくれる相手のハグが大切だ。
いまのご時世ではこうはいかなくなってるんだよなあ、と不意に実感させられ、悲しくなってしまった。
最後に出てくるサイモンは生まれついての全盲で、女性とはキスどころか、手を握ったことすらない。
そんな彼に恋人をつくらせるべく、友人たちがバーに連れていき、カウンターのお一人様女性をナンパするよう背中を押す。
これに失敗したサイモンは、集団お見合いイベント〝スピードデート〟に参加することを決心。
目が見える女性に好印象を与えようと、それまで母親に買ってもらっていた普段着を脱ぎ捨て、友だちにブティックへ連れて行ってもらい、お洒落な服をビシッと決めて出かける。
サイモンは目が見えないため、指先で服の肌触りを確かめる細かな描写が効いている。
前出のジョニもダンスパーティーのためのドレスを選ぶとき、同じように指で肌触りを確かめていて、触覚がいかに大切かを再認識させられる。
ぼくはブラインドスキーのパラアスリート、1998年の長野、2006年のトリノ冬季五輪で金メダリストになった井口美雪にインタビューしたことがある。
そのときにも感じたけれど、目の見えない人にこそ感じ取れるものが確かにあるのだ。
サイモンやマリオが「目が見えなくても、デートに大事なのはやっぱ見た目でしょ!」と言い放つ場面では、吹き出しながらもうなずかされた。
惜しむらくは、4人ぶんの恋のチャレンジを描くには45分はやはり短過ぎたこと。
また、彼らがどのようにして生活費やデートの費用を稼いでいるのか、まったく触れられていない。
好感の持てるドキュメンタリーだけに、そこに食い足りなさが残りました。
オススメ度B。