『Fukushima 50 フクシマフィフティ』😊

122分 2020年 KADOKAWA、松竹

新型コロナウイルスのおかげで映画館もガラガラ、大ヒットした『パラサイト 半地下の家族』ですら、日曜でも4〜5人しか入っていなかった。
という噂を聞き、映画館まで休業となる前にと、確定申告を済ませたきょう、少々焦ってTOHOシネマズ新宿へ観に行ってきた。

確かに空いていることは空いていたけれど、平日午後の部にしてはそれなりにお客さんが入っていたほうだったと思う。
誰もがある程度距離を置いて席を取っているので、近くの話し声やスマホのライトにも邪魔されず、しっかり集中して鑑賞することができました。

2011年3月11日、福島第一原発が地震と津波によって壊滅的な被害を受け、原子炉が次々にメルトダウンを起こし、放射性物質が撒き散らされた。
その最中、最後まで現場に踏みとどまり、安全確保のために働き続けた原発職員たちの姿が描かれる。

開巻、監督の若松節朗は余計な前置きやナレーションを挟まず、いきなり大スクリーンに原発の全容を見せ、午後2時46分発生の激震に見舞われるオープニングで観客を作品世界に引きずり込む。
映画的表現として、あっ、これはドキュメンタリーでは表現できないな、と思ったのは、原発職員たちが真正面から見た津波を、精緻なCGで同じアングルから再現していること。

事故現場の最前線となる中央制御室(中操)の当直長・伊崎利夫(佐藤浩市)、彼に後方から指示を出し、励まし続ける緊急時対策室(緊対)の所長・吉田昌郎(渡辺謙)を中心に物語は進行する。
若松の演出もスピード感と緊張感に溢れ、実際の施設にほぼ忠実に再現したと言われる中操と緊対のリアルなセットと相俟ち、一時も目を離せない。

私は震災発生当時、福島を含む被災地へ取材に行き、福島原発内部で何が起こっていたか、報道や再現ドキュメントなどで知識として知ってはいた。
しかし、こういうスケールの大きな映画として再現されると、改めて当時の職員たちが前代未聞の事態に遭遇し、いかに空前絶後の極限状況に置かれていたかを教えられる。

ただし、欠点がないわけではなく、渡辺と佐藤はどちらも大変な熱演ながら、力が入るあまりか、ときに大芝居が過ぎるくだりも目につく。
また、佐野史郎が演じた総理大臣、東電本社幹部のキャラクターを現実以上の悪役に見せようとしてカリカチュアライズしていることも感心できない。

原子炉の炉心溶融が収まったあと、伊崎は富岡町民が収容された避難所で妻(富田靖子)、一人娘(吉岡里帆)、父(津嘉山正種)と再会。
抱き合って喜んだあと、周りにいた隣近所の住民に「こんな事故を起こして申し訳ありませんでした」と頭を下げる場面には涙が滲んだ。

幕切れで泣かされると、いい映画を観たなあ、という印象が強まりますね。
ただ、エンドクレジットで「2020年東京オリンピック・パラリンピックは、東日本大震災からの復興五輪と位置付けられており、聖火ランナーは福島からスタートする」というテロップが出てきたときは、さすがに複雑な気分にならざるを得ませんでしたが。

採点は80点です。

TOHOシネマズ新宿・日比谷・渋谷・六本木ヒルズ、新宿ピカデリーなどで公開中

2020劇場公開映画鑑賞リスト
※50点=落胆😞 60点=退屈🥱 70点=納得☺️ 80点=満足😊 90点=興奮🤩(お勧めポイント+5点)

4『スキャンダル』(2019年/米)75点
3『リチャード・ジュエル』(2019年/米)85点
2『パラサイト 半地下の家族』(2019年/韓)90点
1『フォードvsフェラーリ』(2019年/米)85点

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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