第92回アカデミー賞授賞式で韓国初、アジア初のオスカー監督となったポン・ジュノが脚本を書き、自身初のプロデュースを担当した海洋サスペンス。
劇場公開当時、Twitterで映画談義をしているフォロワーの方、岡山在住の〈こーちゃん〉に教えてもらい、東京ではもうすぐ公開が終わってしまいそうだったので、慌てて歌舞伎町のTOHOシネマズ新宿へ見に行った。
監督はポン監督の出世作『殺人の追憶』(2003年)の脚本を書いたジム・ソンボで、これが監督デビュー作。
加えて、『母なる証明』(2009年)、『スノーピアサー』(2013年)、『パラサイト 半地下の家族』(2019年)でポン監督と組んだ名キャメラマン、ホン・ギョンポが撮影を担当しており、韓国映画界を代表するトップクラスのスタッフがそろったと言っても過言ではない。
例によって、実話が元ネタになっているという以外、何の予備知識も持たずに見ていたら、物語がとんでもない方向へ展開していくので度肝を抜かれた。
これから見る方はなるべくネットで情報などをチェックせず、白紙の状態で鑑賞するようお勧めしたい。
舞台は実際の事件が起こった韓国の漁師町・麗水(ヨス)。
往時はアンコウ網漁で隆盛を極めたこの町も最近は不漁に泣かされ、かつて名人として名を馳せたカン・チョルジュ(キム・ユンソク)も漁業経営者から給料を前借りしなければやっていけない。
故障だらけで老朽化の著しい自分の船、チョンジン号を修理することもままならず、飲み屋をやらせている古女房は、店のフロアで憂さ晴らしに常連客と堂々とセックスをしている。
その現場に出くわしても怒る気力すらなくしているカンは、開き直った女房に「たまに家に帰ってくるときぐらい金を持ってこい!」と怒鳴りつけられる始末。
預金が底を突いて追い詰められたカンは、知り合いの運送会社の社長の下に出向き、かねて誘われていた密航ビジネスを始めたいと打ち明ける。
中国の朝鮮族の密航者20数人を公海上で船に乗せ、海洋警察の目をかいくぐり、秘かに韓国へ運び込む裏稼業だ。
カン船長の命令によって初めて犯罪に手を染めることになり、戸惑いながらも密航者を受け入れる機関長ワノ(ムン・ソングン)、甲板長ホヨン(キム・サンホ)以下、ギョング(ユ・スンモク)、チャンウク(イ・ヒジュン)ら船員たち。
そうした中、新米のドンシク(パク・ユチョン)は密航者の若い女ホンメ(ハン・イェリ)に一目惚れして、海に落ちた彼女を救って機関室に匿うのだが。
役者はみんな好演で、とりわけカン船長役のキム・ヨンソクの次第に狂気に蝕まれてゆく演技が素晴らしい。
だらしないようでいながら人情味を滲ませていた『チェイサー』(2008年)の刑事とは真逆の役どころだが、後半の派手な暴れっぷりなど、こういうキャラクターのほうが本領だったのかと思わせる。
一方、韓国映画賞の新人賞を総なめにしたというパク・ユチョン(元東方神起、現JYJ)の熱演も印象に残る。
ベテランのヨンソクを向こうに回した演技合戦はもちろん、イェリとの濡れ場で見せる切なげな表情がいい。
原作は実際の事件を素材にした舞台劇『海霧(ヘム)』。
ほとんど船上だけで展開されるストーリーの骨組みが実にしっかりしており、これが完成度を高めている要因の一つ。
その上、監督のソンボ、製作・脚本のポンは徹底的に映像的リアリティーを追求し、ボロボロになった漁船と食い詰めた船員たちの船上生活を実に細かく再現、本当に腐った魚の臭いがするほどの生々しい作品世界を構築することに成功している。
これについては撮影のギョンボはもちろん、美術のイ・ハジュン(『パラサイト 半地下の家族』)の功績もまことに大きい。
オススメ度A。
ブルーレイ&DVDレンタルお勧め度2020リスト
A=ぜひ!🤗 B=よかったら😉 C=気になったら😏 D=ヒマだ ったら😑
※ビデオソフト無し
14『スノーピアサー』(2013年/韓、米、仏)A※
13『前科者』(1939年/米)C
12『化石の森』(1936年/米)B
11『炎の人ゴッホ』(1956年/米)B※
10『チャンピオン』(1951年/米)B※
9『白熱』(1949年/米)A
8『犯罪王リコ』(1930年/米)B
7『ユリシーズ 』(1954年/伊)C
6『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』(2017年/泰)B
5『七つの会議』(2019年/東宝)A
4『キャプテン・マーベル』(2019年/米)B
3『奥さまは魔女』(2005年/米)C
2『フロントランナー』(2018年/米)B
1『運び屋』(2018年/米)A