第92回アカデミー賞授賞式において、『パラサイト 半地下の家族』(2019年)が韓国初、アジア初の作品賞、監督賞、脚本賞、国際長編映画賞に輝いた。
韓国が、アジアがという以上に、英語圏以外の映画人として史上初の快挙を成し遂げたポン・ジュノが、初めてハリウッドに進出したのが、この『スノーピアサー』(2012年)である。
2014年、人類が地球温暖化防止のために開発された化学薬品CW-1を成層圏に散布したら、これが逆効果で地球は氷河期に逆戻り、ほとんどの人間が死に絶えてしまう。
そうした中、僅かに生き残ったのは、北極からアフリカ大陸まで地球上をめぐる数十万キロのレールを疾走する列車スノーピアサーに乗っている者たちだけだった。
映画が本筋に入るのはそれから17年後の2031年、永久機関によって走り続ける列車の中。
その内部は完璧な格差階級社会と化しており、最後尾の車両に押し込められた貧困層は奴隷として酷使される一方、先頭車両に近い富裕層は衣食住ともに満ち足りた生活を送っている。
スノーピアサーの先頭車両にはこの列車(=人類社会)の〝創造主〟ウィルフォードがいる。
この創造主を打倒するべく、アベンジャー・シリーズでキャプテン・アメリカに扮したクリス・エヴァンスが貧困層の有志を率いて先頭車両へ進撃を開始し、ひとり、またひとりと仲間や弟分を失いながら、ようやくウィルフォード(エド・ハリス)に対面するのだが…。
第一に素晴らしいのは、まずこの圧倒的な世界観である。
オルダス・ハクスリーのSF小説『すばらしき新世界』(1934年)を原典とするディストピア映画はこれまでにも数多つくられてきたが、疾走する列車の中に限定して展開したのは本作が初めてだろう。
原作はフランスで評判を取った作者3人の合作によるグラフィック・ノベル。
これに惚れ込んだ監督ポン・ジュノが自ら原案を書き、企画を立ち上げたという。
第二に特筆すべきはそのポン・ジュノのダイナミックで緻密に計算された脚本と演出だ。
出世作『殺人の追憶』(2003年)、ミステリ映画の大傑作『母なる証明』(2009年)でその素質と才能は折り紙付きだったが、本作でさらにスケールアップ。
とりわけ、エヴァンスたちが前進を続けるにつれ、車両の中に植物園、精肉工場、水族館、サロン、美容室、クラブ、学校、プールなど、別世界のような施設が次から次へと眼前に現出するアイデアにはのけぞらされた。
しかも、要所要所で笑いを挟むタイミングがまた絶妙。
第三は適材適所を得たキャスティング。
主役のエヴァンスもさりながら、エンジンの開発者を演じるソン・ガンホとその娘コ・アソン、息子を奪われたオクタヴィア・スペンサー、さらに総理大臣役のテルダ・スウィントンが抜群の存在感を見せている。
オススメ度A。
(旧サイト:2014年11月28日付Piuk-up記事に加筆訂正)
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A=ぜひ!🤗 B=よかったら😉 C=気になったら😏 D=ヒマだったら😑
※ビデオソフト無し
13『前科者』(1939年/米)C
12『化石の森』(1936年/米)B
11『炎の人ゴッホ』(1956年/米)B※
10『チャンピオン』(1951年/米)B※
9『白熱』(1949年/米)A
8『犯罪王リコ』(1930年/米)B
7『ユリシーズ 』(1954年/伊)C
6『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』(2017年/泰)B
5『七つの会議』(2019年/東宝)A
4『キャプテン・マーベル』(2019年/米)B
3『奥さまは魔女』(2005年/米)C
2『フロントランナー』(2018年/米)B
1『運び屋』(2018年/米)A