『ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男』(WOWOW)😉

Darkest Hour 126分 2017年 
イギリス、アメリカ=フォーカス・フィーチャーズ、ユニバーサル・ピクチャーズ 
日本公開:2018年 ビターズ・エンド、パルコ

どちらかと言えば犯罪者や変質者のイメージが強いゲイリー・オールドマンが、世界史に残る英国の名宰相ウィンストン・チャーチルを熱演した作品。
劇場公開当時、撮影前に毎回2時間かけて特殊メイクを施した辻一弘が、日本人として初めてアカデミー特殊メイクアップ&ヘアスタイリング賞を獲得したことでも話題になった。

ただし、映画としては面白いが、感心したり、心揺さぶられたりするところまではいかなかった。
チャーチルの人物像に新解釈を加えた評伝、ヒトラーとの対決の内幕を描いた社会派作品かと期待して観たら、もっと単純な見世物、つまりオールドマンのワンマンショーとして作られているからである。

本作のチャーチル=オールドマンは最初から最後まで、とにかくエネルギッシュによくしゃべる。
朝からスコッチ、昼はシャンパン、夜もワインを飲んでいるという明らかなアル中で、妻クレメンティーン(クリスティン・スコット・トーマス)に節煙すると約束した葉巻も一日に4本というヘビースモーカー。

普段は下品で横柄、激昂すると大変攻撃的になり、いつもヒステリックにわめき散らすため、周囲からは鼻つまみ者扱い。
第一次世界大戦では海軍大臣としてガリポリの戦いに大敗し、21000人以上の戦死者、52000人以上の戦傷者を出したことから、政界では敵も多かった。

そんなチャーチルのネガティヴな一側面を、オールドマンは最初のうち、極めて露悪的に演じている。
ところが、チャーチルが第二次世界大戦中、与野党の思惑から場つなぎ的な首相に祭り上げられるや、ナチス・ドイツに徹底抗戦を宣言。

様々な場面で何度もハイテンションで長ゼリフをまくし立て、最終的には邦題のサブタイトル「ヒトラーから世界を救った男」と化す。
という、文字通り映画みたいなサクセスストーリーに、演技派のオールドマンが大いに役者魂を掻き立てられたことはよく理解できる。

しかし、本作はチャーチル=オールドマンをカッコよく見せることに偏り過ぎていて、社会派作品としての見応え、人間ドラマとしてのコクに乏しい。
チャーチルを毛嫌いしていた国王ジョージ6世(ベン・メンデルソーン)が終盤にきて突然「私はきみを支持する」と言い出すあたり、史実通りだとしても映画の話術として布石が打たれていないため、いささか唐突に感じられた。

また、その国王に「国民の声を聞け」と勧められ、人生で2度目の地下鉄乗車を経験したチャーチルが、乗り合わせた乗客たちに熱烈なエールを送られ、彼らの名前をマッチブックの裏側に書きつける、というエピソードもいかにも嘘臭い。
と思ったら、このくだりはやはり、完全なフィクションだという。

秘書エリザベス・レイトン(リリー・ジェイムズ)をはじめ、政敵のハリファックス外務大臣(スティーヴ・ディレイン)、チェンバレン前首相(ロナルド・ピックアップ)ら、主要脇役の描き方もいかにも類型的。
誰も彼も単なるカウンターパートにとどまっており、チャーチル=オールドマンの引き立て役でしかない。

監督は『プライドと偏見』(2005年)のジョー・ライト、脚本は『博士と彼女のセオリー』(2014年)のアンソニー・マクカーテン、撮影は『インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌』(2014年)のブリュノ・デルボノルと、スタッフはいまをときめく超一流ぞろい。
それでも、スター俳優のエゴが前面に押し出され、彼をカッコよく見せることが第一、という基本的な構造が透けて見えると、結局はこんなものかなー、ハリウッド映画のノリで作られてるし、という冷めた感慨も湧く。

オススメ度B。

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A=ぜひ!🤗 B=よかったら😉 C=気になったら😏  D=ヒマだったら😑
※再録、及び旧サイトからの再録

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10『チャンピオン』(1951年/米)B※

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8『犯罪王リコ』(1930年/米)B
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スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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