主人公ジョゼフ・キャッスルマン(ジョナサン・プライス)は、日本で言えば村上春樹のように、毎年「今度こそノーベル文学賞」と言われながら、延々と落選を続けているアメリカの大作家。
1992年、「今年も落ちたらマスコミの取材は受けない。別荘に雲隠れする」と妻ジョーン(グレン・クローズ)に宣言した矢先、ノーベル財団から受賞の電話がかかってくる。
たちまち有頂天になったジョゼフは自宅で盛大なパーティーを開き、友人知人に加え、マスコミも招待して「すべては妻のおかげだ」と、これでもかとばかりにジョーンを持ち上げる。
が、そばで聞いている当のジョーンと息子デヴィッド(マックス・アイアンズ)の様子がなんとなくおかしい。
ここから物語は、スミス大学教授だった若き日のジョセフ(ハリー・ロイド)、その教え子だったジョーン(アニー・スターク、クローズの娘)が交際を始めた青春時代の1958年へ遡行。
ジョセフより創作の才能に恵まれていたジョーンが、ジョセフのゴーストライターを務めていたことが明らかになってくる。
この内容から思い起こされるのは、村上春樹が尊敬し、邦訳の出版にも尽力したアメリカの作家レイモンド・カーヴァーに関する一連の疑惑である。
カーヴァーの代表作には編集者ゴードン・リッシュがかなりの変更と修正を加えており、代表作は詩人の妻テス・ギャラガーが書いたプロットからの剽窃も疑われている。
そういった文学的側面から描かれていれば、この映画はもっと面白くなったのではないかと思う。
しかし、コメディー的ファミリードラマなのか、文学者の夫婦関係に焦点を当てた人間ドラマなのか、最後まで中途半端なままに終わっている。
夫婦関係が破綻に向かうクライマックスでは名優の評価が高いクローズ、プライスともにそれなりの熱演を披露しているが、いまひとつサスペンス不足。
ノーベル賞授賞式につきまとってきたゴシップ記者ナサニエル・ボーン(クリスチャン・スレーター)を追い払い、子供たちにだけはすべてを明かす、とジョーンが宣言する幕切れも盛り上がらない。
そうした中で最も印象に残ったのは、若き日のジョーンが作家になることを断念する場面。
ジョーンが尊敬する母校の図書館へ大学出身の女流作家の講演に行き、その作家に挨拶すると、作家は「この国では女流作家の作品は読んでもらえないのよ」と冷たく告げる。
作家は、ジョーンをその大学出身者の著書が並んでいる本棚の前へ連れて行き、自分の本を取り出す。
ジョーンが作家に手渡された本を広げると、バリッと乾いた音がした。
「わかるでしょう? 私の本はいままで、誰も開いて読んだことがないのよ。
大学出身者の著書として、ただここに陳列されているだけ」
これほど胸に響いたセリフは久しぶりだった。
この場面は1950年代における女性文学者の立場を象徴するエピソードとして描かれているが、実は現代の大学に学び、文学書を著している人たち全員に当てはまると言っても過言ではない。
オススメ度B。
ブルーレイ&DVDレンタルお勧め度2020リスト
A=ぜひ!🤗 B=よかったら😉 C=気になったら😏 D=ヒマだったら😑
※ビデオソフト無し
16『デッドラインU.S.A』(1954年/米)B
15『海にかかる霧』(2014年/韓)A※
14『スノーピアサー』(2013年/韓、米、仏)A※
13『前科者』(1939年/米)C
12『化石の森』(1936年/米)B
11『炎の人ゴッホ』(1956年/米)B※
10『チャンピオン』(1951年/米)B※
9『白熱』(1949年/米)A
8『犯罪王リコ』(1930年/米)B
7『ユリシーズ 』(1954年/伊)C
6『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』(2017年/泰)B
5『七つの会議』(2019年/東宝)A
4『キャプテン・マーベル』(2019年/米)B
3『奥さまは魔女』(2005年/米)C
2『フロントランナー』(2018年/米)B
1『運び屋』(2018年/米)A