ポン・ジュノ監督の最新作『パラサイト 半地下の家族』(2019年)では韓国の格差社会や学歴差別が描かれていたが、こうした問題はタイでも大変深刻化しているらしい。
奨学金を得て名門校に入学した貧困層の高校生男女が、高額の報酬と引き換えに富裕層の生徒たちのカンニングに協力する姿が描かれる。
数学に秀でた女子高生リン(チュティモン・ジョンジャルーンスックジン)は、高校教師の父親(タネート・ワラークンヌクロ)に男手ひとつ育てられた貧困層育ち。
授業料だけでなく、毎日の通学にかかる交通費も生活の負担になると自ら校長に訴え、奨学金を獲得して入学を決める。
タイの高校の試験はすべてマークシート方式で、数学の方程式の解もA〜Dの4つの選択肢から選ぶシステム。
リンは数学のテストでクラスメートのグレース(イッサヤー・ホースワン)に、ひょんなことから答えを教えてあげる羽目になる。
これに味をしめたグレースは、お金を払うから今後もカンニングに協力してほしいとリンに持ちかける。
しかも、恋人パット(ティーラドン・スパパンピンヨー)をはじめ、数学の苦手な金持ちの同級生みんなに答えを教えてほしいというのだ。
最初のうちは逡巡していたリンは、グレースに押されてカンニングを承諾。
マークシートの選択肢A〜Dに合わせた独特の〝コード〟を考案し、これを富裕層の生徒たちに覚えさせてカンニングを成功させる。
図に乗ったグレースはパットとボストンの大学に進学することを計画。
共犯者を募って大金をかき集め、国際的な大学入試資格取得テストSTICでカンニングを成功させたいとリンに持ちかける。
これを成功させるには、もうひとりの奨学生バンク(チャーノン・サンティナトーンク)に協力してもらわなければならない。
しかし、リンと同じ貧困層出身で、クリーニング屋を営む母(ウライワン)に女手ひとつで育てられた生真面目なバンクは、不正への加担を拒否。
ところが、母の仕事を手伝い、洗濯物を抱えて帰ってきた前夜、バンクは暴漢に襲われて気を失い、翌日の留学試験を受けられなかった。
こうしてリンに協力せざるを得なくなったバンクはあるとき、グレースとパットが秘かに企んでいた陰謀に気づく。
カンニング自体はゲーム感覚で描かれており、自らオリジナル脚本も手がけたナタウット・プーンピリヤという監督の演出も切れ味十分。
日本やアメリカのエンターテインメントなら痛快なエンディングで締めくくるところだろうが、本作は監督の個性なのか、タイというお国柄なのか、実にビターで現実的な幕切れに着地させている。
面白さと完成度は及第点で、ヒロインを演じるモデル出身ジョンジャルーンスックジンをはじめ、経験が乏しいという若い役者たちも好演。
タイの映画をもっと観てみたいという興味も湧いた。
オススメ度B。
ブルーレイ&DVDレンタルお勧め度2020リスト
A=ぜひ!🤗 B=よかったら😉 C=気になったら😏 D=ヒマだったら😑
※ビデオソフト無し
5『七つの会議』(2019年/東宝)A
4『キャプテン・マーベル』(2019年/米)B
3『奥さまは魔女』(2005年/米)C
2『フロントランナー』(2018年/米)B
1『運び屋』(2018年/米)A