『パラサイト 半地下の家族』🤩

기생충(寄生虫),Parasite 
132分 2019年 韓国=CJエンタテインメント 日本配給:2020年 ビターズ・エンド

初めてポン・ジュノ監督作品『母なる証明』(2009年)を観たとき、未知の面白さ、完成度の高さ、さらにそれまで味わったことのない独特の余韻に、しばし呆然となったことを覚えている。
韓国映画界にはとんでもない才能の持ち主がいるものだと驚嘆した半面、ミステリとしてのあまりの完璧さに、これが彼の頂点かもしれないと、この監督の先行きに対する懸念も抱いた。

それがぼくの浅はかな見込み違いだったことは、4年後のディストピア超大作『スノーピアサー』(2013年)で証明される。
今度は逆に、これほどの監督がカンヌ国際映画祭でパルムドールを獲得した作品なのだ、絶対に面白くないわけがないと、頭から期待度120%でTOHOシネマズ上野へ足を運んだ。

しかも、主演は『スノーピアサー』をはじめ、ポン監督の出世作『殺人の追憶』(2003年)、『グエムル−漢江の怪物−』(2006年)など、4作品で監督とタッグを組んだ名優ソン・ガンホ。
この2人のコンビでつまらない映画ができることなどあり得ない、というぐらい絶対の信頼が、観る前からあった。

ただ、それほど事前の期待値が高いと、どんなに出来栄えのいい作品でも、ちょっとでも弱点が目についただけで、過度な落胆を覚える、ということもしばしばある。
しかし、本作はそんな杞憂を軽々と凌駕し、次から次へと期待以上の展開を見せ、こちらの予想を遥かに超える高みへとトリップさせてくれた。

タイトルにある「半地下」とは、韓国国民の約2%を占める貧困層がソウル市内で暮らすアパートのこと。
北朝鮮の脅威に備えて作られた防空壕を改造した代物で、住居スペースが地面より下にあるため、目の高さにある窓の向こう側で酔っ払いが立ち小便や反吐を吐く姿が毎晩のように眺められる。

観ているだけでスクリーンの向こう側から強烈な生活臭が漂ってきそうなこの部屋に、父キム・ギテク(ソン)、母チュンスク(チャン・ヘジン)、長男ギウ(チェ・ウシク)、長女ギジョン(パク・ソダム)の4人家族が、文字通り身を寄せ合うようにして暮らしている。
映画は、ギウとギジョンが近所のWi-Fiに無料でアクセス(タダ乗り)するため、スマホを頭上に掲げて家の中をうろつく場面から始まる。

ようやくWi-Fiがつながったのは、洋式便器が床から1.5メートル高い位置に作られているトイレだ。
半地下アパートでは、下水道が床より高いところにあるため、便器を同じ高さの場所に設置せざるを得ないのである。

ギテクは何度も事業に失敗して失業中のため、家族4人全員が宅配ピザ屋〈ピザ時代〉のデリバリーボックスを組み立てる内職をして生活費を稼いでいる。
長男ギウはソウル大学、長女ギジョンは美術大学を目指して受験浪人中だが、金がなくて予備校に通えない。

そこへ、ギウの友だちミニョク(パク・ソジュン)が、大金持ちの女子高生の家庭教師のアルバイトをしないかと、ギウに持ちかける。
言われるままにギウが訪ねた家は、かつて有名建築家が建て、現在はIT企業の社長一家が暮らす大豪邸だった。

ギウが初めて招じ入れられたのは半地下アパートの何倍もの広さのリビングで、全面ガラス張りの窓の向こうには丁寧に作り込まれた日本庭園が広がっている。
半地下アパートの窓と対比させたこの場面は、現代韓国の格差社会、という以上の階級社会における富裕層と貧困層の差を強烈に印象付けないでは置かない。

父パク・ドンイク(イ・ソンギュン)はイケメンのエグゼクティブ、母ヨンギョ(チョ・ヨジャン)はお洒落な美人、高校生の長女ダヘ(チョン・ジソ)とまだ幼い長男ダソン(チョン・ヒョンジュン)は絵に描いたような大金持ちのお嬢ちゃん、お坊ちゃん。
何から何まで対照的、韓国の勝ち組と負け組、奇しくも同じ夫婦と一男一女という4人家族がギウを媒介として接触したとき、想像を絶する悲喜劇と残酷ショーの幕が上がる。

シナリオがよく練り込まれている上、ソンをはじめとした役者もみんな好演。
とくに、パク家の家政婦ムングァンを演じるイ・ジョンウンが『母なる証明』、『焼肉ドラゴン』(2018年)をも凌ぐ熱演を見せている。

救いようのない話なのに、それでも笑いながら観ることができ、観賞後も元気をもらったような気分になるのは、ポン作品の大きな特長。
これは主役たちからちょっと映るだけの医者や刑事まで、魅力的な役者をそろえているからかもしれない。

採点は90点。

TOHOシネマズ上野・日本橋・日比谷・新宿・渋谷・六本木ヒルズなどで公開中

2020劇場公開映画鑑賞リスト
※50点=落胆😞 60点=退屈🥱 70点=納得☺️ 80点=満足😊 90点=興奮🤩(お勧めポイント+5点)

1『フォードvsフェラーリ』(2019年/米)85点

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
先頭に戻る