池井戸潤はいまや原作者の名前で観客を呼べるナンバーワン作家ではないか。
その上、野村萬斎をはじめとする豪華キャストをそろえ、『祈りの幕が下りる時』(2018年)の福澤克雄が監督を務めているとなれば、これはもう面白くならないわけがない。
開巻早々、社会問題化しているパワハラを露骨にカリカチュアライズしたかのような東京建電なる会社の営業会議からスタート。
営業部長の北川誠(香川照之)は営業第二課長の原島万二(及川光博)を激しく罵倒する一方、第一課長の坂戸宣彦(片岡愛之助)を褒めちぎり、返す刀でまた原島をこき下ろす。
そんな会議の最中、ひとり居眠りをしていびきを描いている一課のグータラ社員、八角民夫(萬斎)だけは何故か北川のお目こぼしを受けている。
業を煮やした坂戸は八角に残業を命じ、これを拒否されると辞職を要求するが、あべこべにパワハラだと八角に訴えられ、人事部付に左遷。
そのしわ寄せを食い、原島が坂戸の後釜として第一課長に昇格。
原島の下で伝票処理係を務める浜本優衣(朝倉あき)は社内不倫に疲れ果て、寿退社だと嘘をつき、近日中に会社を辞める予定になっていた。
そうした複雑でややこしい人間関係の裏側には、二重三重の秘密、遺恨、会社の存続をも危機に陥りかねない大変なスキャンダルが隠されていた。
というストーリーを、原島→坂戸→浜本→そしてクライマックスでは八角と、テンポよく一人称の語り手を変えながら盛り上げていく。
変にリアリズムに走らなかったのが成功の要因で、最初のうちはいささか作り過ぎに感じられる萬斎のキャラクターも、ストーリーが進むに従ってカッコよく見えてくる。
冷静に考えたら、親会社の社長を前にした〝御前会議〟が、あんな帝国ホテルの大広間みたいなところで行われるわけがないんですけどね。
まともな会社に勤めたことがなく、フリーランサーになって15年も経つ身には、いくら世間体がよくても、こんなサラリーマンにならなくてよかったなあ、と思わないではいられない。
池井戸作品がなぜ世にウケているのか、改めてよくわかる映画でした。
オススメ度A。
ブルーレイ&DVDレンタルお勧め度2020リスト
A=ぜひ!🤗 B=よかったら😉 C=気になったら😏 D=ヒマだったら😑
※ビデオソフト無し
4『キャプテン・マーベル』(2019年/米)B
3『奥さまは魔女』(2005年/米)C
2『フロントランナー』(2018年/米)B
1『運び屋』(2018年/米)A