1988年のアメリカ大統領選挙に民主党から立候補した伊達男、ゲイリー・ハートの登場は非常に鮮烈だった。
ケネディ大統領を彷彿とさせるルックスと雰囲気に加え、発展しつつあったハイテク技術、ソ連の政治や文化などに詳しい先進性が若者の熱狂的な支持を集め、日本でも盛んに報じられている。
いまでもよく覚えているのは、若い支持者たちが掲げていたプラカード、現職のレーガン大統領(共和党)にあてつけたキャッチコピー、「レーガンにはハートがない!」だ。
ハート(Hart)と心(Heart)を引っかけていることは説明するまでもない。
本作のタイトルは、当時の米国メディアがハートに冠したフロントランナー(大統領候補の筆頭)という異名から採られている。
88年当時は「ハート旋風」「ハート現象」という言葉も生まれ、これは日本でもたびたび紹介された。
それほどのブームを巻き起こしたハートが、ワシントンの自宅に選挙スタッフの女性を引っ張り込んだことをすっぱ抜かれるや、あっという間に奈落の底へと真っ逆様。
ついには、自ら大統領選挙から降りなければならなくなる。
いったい、実際には何があったのか。
ハートの失脚以降、日本のマスコミでは報道が途絶えてしまい、最近では日本のウェブサイトにも「ハートスキャンダル」を振り返った記事は見当たらず、ウィキペディア日本語版にすらハートの項目がない。
もう真相は永遠に謎のままなのか、スキャンダル自体が完全に風化してしまったのか、と思っていたら、30年後のいまになってこういう映画が作られた。
ハート役はいまをときめくヒュー・ジャックマン、スキャンダル報道の対応に奔走する選挙参謀ビル・ディクソンをJ・K・シモンズが演じている。
監督は才人ジェイソン・ライトマンで、ドキュメンタリータッチの演出が切れ味よく、なかなか手堅くまとめられており、2時間弱、一応退屈はさせない。
が、肝心のハートと〝一夜の愛人〟ドナ・ライス(サラ・パクストン)との関係の描き方が曖昧な上、マイアミ・ヘラルド紙の報道以後、全米のマスコミが大騒ぎを始めると、主人公のハートが物語の前面からいなくなってしまう。
代わりに描かれるのが、コロラドの自宅でマスコミの取材攻勢にさらされるハートの妻リー(ヴェラ・ファーミガ)、娘アンドレア(ケイトリン・デヴァー)の苦悩と葛藤。
さらに、ディクソンを中心とした選挙スタッフ、ハートを追い詰めるマイアミ・ヘラルドのトム・フィドラー(スティーヴ・ジシス)、ワシントン・ポストのA・J・パーカー(アムドゥ・マティ)とのいざこざである。
このあたり、それなりに見せる場面にはなっているものの、肝心の主役が映画からも雲隠れしていては、やはり隔靴掻痒の感が強い。
幕切れにはハート夫妻が現在も離婚してはいないというテロップが出るので、だから気を遣わざるを得なかったのか、とは思いましたが。
オススメ度B。
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A=ぜひ!🤗 B=よかったら😉 C=気になったら😏 D=ヒマだったら😑
※ビデオソフト無し
1『運び屋』(2018年/米)A