昨年出版された映画本の中では最も面白く読んだ一冊。
本当は昨年中にレビューをアップしておきたかったのだが、年末年始進行、忘年会、帰省に伴うバタバタで思うに任せず、年を越してしまいました。
かつて松竹で異端視されながらも稀代のヒットメーカーとなって一時代を築き、いったん追放されて終わったかと思いきや、逞しく再起した奥山和由の映画論、プロデュース論。
構成を務めている春日太一が私より10歳年下と、割と世代の近い映画研究家とあって、私にとっても思い出深い作品の製作秘話が詳しく語られている。
開巻早々、「松竹に奥山和由あり」と知られるきっかけになった『丑三つの村』(1983年)の章から引き込まれた。
この映画、45歳で亡くなった主演・古尾谷雅人の代表作で、私自身、学生時代に映画館へ2度足を運んでいるからだ。
北野武の映画監督デビュー作となった『その男、凶暴につき』(1989年)、2バージョン公開されて話題となった『RAMPO』、深作欣二と最後に組んだ『忠臣蔵外伝 四谷怪談』(1994年)、石井隆監督による異色の犯罪群像劇『GONIN』(1995年)などなど、オンタイムで夢中になった映画の裏話が紹介されるくだりは巻置く能わず。
また、個人的には萩原健一の自叙伝『ショーケン』の構成も手がけた関係上、『龍馬を斬った男』(1987年)、『226』(1989年)、『いつかギラギラする日』(1992年)の内幕もまた大変興味深かった。
奥山は松竹で〝鬼っ子〟扱いされており、いくら好企画を立てても上層部がOKを出してくれず、またOKを出しても予算を安く抑えられてしまうため、人脈を開拓して外部の企業や協力者から出資を募り、独自のファンドを作っていたという。
つまり、松竹に給料をもらっている〝サラリーマン・プロデューサー〟に比べると、恐らく倍以上の苦労を強いられていたわけだ。
それを支えていたのは、映画そのものはもちろん、深作欣二、ショーケン、北野武といった稀有な才能を持つ映画人の作品を世に出したい、という情熱である。
本書ではとりわけ、深作との関わりにかなりのページ数が割かれており、奥山のヒリヒリするような情熱と思い入れが伝わってくる。
当然のことながら、映画ファンほど思わずビックリしたり、ニヤニヤしたくなったりするエピソードも豊富。
後半、奥山がロバート・デニーロと親交を結び、内田裕也に嫉妬されたというくだりは、これ自体が映画のようなお話。
角川春樹もそうだったけれど、やっぱり一世を風靡する人は熱量と行動力が違います。
今年は久しぶりに世の中を騒然とさせるような作品を期待したい。
2020読書目録
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※は再読、及び旧サイトからのレビュー再録
1『映画プロデューサー・奥山和由の天国と地獄』(2019年/文藝春秋)奥山和由、春日太一😆😳🤔