本作もNHKが終戦の日の時期に合わせて放送したドキュメンタリー。
日本に平和憲法が制定された敗戦後、戦場で人を殺した日本人はひとりもいないはずだ、という〝常識〟を覆す衝撃的な内容である。
1950年に始まった朝鮮戦争に、日本人約70人が強制的に従軍させられ、最前線での戦闘に参加していた。
その中には、ひとりで15人から20人の北朝鮮人を殺し、自らも戦死した軍属もいたという。
この衝撃的な事実が白日の下に晒されるきっかけとなったのは、アメリカが公開した公文書の中にある1033ページの尋問調書だ。
これを発掘したオーストラリア国立大学名誉教授テッサ・モーリス・スズキのインタビューから本作は始まる。
スズキ教授は朝鮮戦争に武器を供給していた日本企業について調査している最中、この貴重な資料を発見。
NHKはスズキ教授と協力し合い、朝鮮戦争に従軍させられた日本人軍属の足跡を追う。
前編の主人公は、第34歩兵連隊の通訳で、尋問調書にウエノ・タモツと記されていた上野保。
福岡の米軍施設キャンプ小倉から朝鮮に連れて行かれた上野は、戦地でM-2カービン銃、銃弾120発を支給され、開戦数カ月後に行われた米軍の尋問に「北朝鮮人を何人殺したかわかりません」と答えている。
僅か数カ月でそうせざるを得ないほど、上野が従軍したテジョンの戦いは熾烈、凄惨を極めたという。
当時の状況について、上野と同じように従軍させられた澤頭六藏(さわがしら・ろくぞう)、有吉武夫ら、当時10代で現在は90歳近い軍属がインタビューに答えて戦場の様子を生々しく証言。
さらに、彼ら日本人兵士とともに戦ったスチュワート・サイズモア(当時第34歩兵連隊・87歳)、ハル・エスリッジ(同第19歩兵連隊・88歳)ら、元米国軍人も本作のインタビューに協力。
サイズモアが「当時、日本人がいたことは極秘扱いだったんだ」と言いながら、戦死した米兵の遺体の写真を見せて残虐な殺し合いだったことを強調する一方、エスリッジは「日本人は友情からではなく、我々が占領軍だから従わざるを得なかったんだ」と語る。
中国、ソ連からの批判を恐れたアメリカは、開戦8カ月で日本人軍属は用済みとし、次々に帰国させる。
しかし、上野は帰国後の1958年1月26日、米軍基地内での喧嘩に巻き込まれ、29歳という若さで亡くなった。
後編の主人公は、朝鮮で戦死した平塚重治。
太平洋戦争でニューギニアの戦いを生き延びて帰国、戦後は六本木の米軍基地に勤務していたが、朝鮮戦争に引っ張り出され、開戦数カ月後で戦死。
太平洋戦争から生きて帰った息子が、朝鮮戦争で死んだと聞かされた親の悲しみようはいかばかりか。
朝鮮戦争に連れて行かれた日本人には、〝第二の戦後〟があったのだ。
大変な力作ながら、欠点がないでもなく、戦場を描いた再現ドラマの部分がいかにも作り物めいていて、ドキュメンタリーとしての迫力やリアリティーを弱めている、とぼくは思う。
NHK定番の手法ではあるが、そろそろ再考すべき時期ではないだろうか。
オススメ度A。