NHKが毎年終戦の日の8月15日を迎えるたびに制作・放送しているドキュメンタリーの中では、ここ数年で最も興味深く観た作品。
最近になって発見された初代宮内庁長官・田島道治の拝謁記を元に、昭和天皇が自らの戦争責任をどのように考えていたかが克明に描かれている。
戦後、人間宣言を行い、国民統合の象徴とされた昭和天皇は終戦の翌年、1946年から全国各地を回り、国民と直接対話を行う巡幸を始める。
宮内庁長官の田島はその天皇に寄り添い、1949年から4年10カ月に渡って昭和天皇との対話を記録した拝謁記を残した。
昭和天皇はその中で、太平洋戦争を起こし、日本を敗戦に導いたことに対する反省の気持ちをたびたび田島に吐露。
「情勢が許せば退位とか譲位とかいうふことも考へらるる」「国民が退位を希望するなら少しも躊躇せぬ」とまで述べている。
昭和天皇はさらに1952年、独立記念式典の「おことば」においても、戦争を起こしたことの反省を表明したい、反省という文字をどうしても原稿に入れたいのだ、と田島に対して強く主張。
しかし、当時の首相・吉田茂は、ようやく日本が敗戦から立ち直りつつあるいま、天皇がそうしたお言葉を発すれば国民の間に動揺と混乱が生じかねない、としてこれを退けた。
このほかにも、昭和天皇が戦後、皇室と国民との新たな関係をどのように構築していかねばならないと考えていたのか、実際に発せられた言葉が大変興味深い。
作品では昭和天皇を片岡孝太郎、田島を橋爪功が演じた再現ドラマで、ふたりのやり取りを生々しく再現している。
本作が放送された当初は、天皇の言葉の解釈が偏っているとか、拝謁記を必要以上に美化しているとかいった批判もあったようだ。
が、これまで伝聞や憶測の域を出なかった、昭和天皇の戦争責任に対する考えと言葉が、こうして国民にわかりやすい形で報じられたことの意義は極めて大きい。
オススメ度A。